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コラム「研究員のココロ」

大学の組織改革の方向と課題

2007年01月05日 三宅光頼


1.大学の存在意義の課題- 大学の自治とのかかわりの中で

 大学の事業の目的(あるいは存在意義)は何か、と問われたら何と応えればいいでしょか。教育、研究、貢献(真理探究etc)など、大学という組織を通じてミッションを実現していくわけですが、実際にミッションは多岐にわたり複雑にからみ交錯しています。
 教育に携わる個人としての存在、地域社会から子息を預かり社会との共存をする法人としての存在、学問や育成を担う社会的機関、社会的機能としての存在。これらの存在意義が同心円内で真集合として存在せず、和集合として網羅的になる中で論理展開されるために存在意義が振れていきます。個人の研究教育活動を、国家権力が制約することは断じて許すことはできず、授業料と税金を使う経営者の方針のもとに経営行動を行っていても、経営側の関与は一定の制限を期待し、報酬として生計をたてている教育者は「研究をすること」が対価であり貢献であると考えてしまいがちとなります。
 また、教育に携わるものにとっては、「学問そのものが真理の探究であり、その真理の探求に対して、個人の思い込みや、時々の権力による介入や歪曲、捻じ曲げは許されず、できうる限り客観的・科学的な眼や証拠によって取り扱われなければならず、それこそ学問が学問たる最低限の条件というものであり、その探求の環境を保護するには、自治という形態以外にありえない」ということになるでしょう。
 それを集団で実行する場合、個人の自由と組織の自治という概念が交錯することになり、さらに存在意義を曖昧にします。

 自治は、地方自治体のように中央との「役割分担としての自治」と、自らの進退は自ら決定する「自決の自治」、さらに独立性を担保するための「基本的権利(人権)としての自治」が絡みます。
 本来、完全な組織の自治は「自責力・自給(立)力・自浄(律)力・自走力」をもつ組織のみが持つことができるものであり、組織行動を個人に敷衍したものではなく、その意味で大学の完全な自治は、主張(理念)としての自治はありえても、現実としての自治は、一部の制限を受けざるを得ないと考えざるをえません。
 通常、企業の事業目的は顧客の創造、企業価値の増大、事業の継続(ゴーイング・コンサーン)にあるといわれています。大学の事業目的は、雑駁(ざっぱく)な表現が許されるならば、真理の探究を通じて人類と国家へ貢献することにあるといっていいでしょう。
 ここでは、その前提で議論をすすめることとし、そうであるならば、通常の営利企業の事業目的が「企業価値の増大と事業の継続」であると同じように、大学のミッションは、第一義には、大学(の存在)価値の増大と事業(理念)の継続(他の大学に対して競争力・存在意義のある大学創り)にあるということは可能と思われます。


2.大学の価値増大と事業(理念)の継続の実践課題

 それでは、価値の増大と事業の継続は、どのようにして実践するのでしょうか。
当然ですが、それは教育機関として次の3つの基本的なサービスの質を徹底的に高めること以外にはありません。
 第一は、企業経営と同じく教育と研究の質を高めること(高品質の財サービスつくり)、第二は学生(親)・地域と企業の3方にとってのコストパフォーマンスを高めること(利害関係者や顧客満足の充足)、そして、第三に、他の教育機関・研究機関との徹底した差別化(勝てる組織と勝てる人材)を実現することにあるといえます。大学価値の増大と事業の継続の実践は、『財サービスの継続的開発と提供を通じて、利害関係者への満足の提供を組織として「比較優位」を実現しながら継続していくこと』と定義できるでしょう。
 この定義を確実に実行していくためには、以下の3つの機能と役割を総合的に推進する仕組みと仕掛けが内蔵されている必要があります。

(1)教育と研究を担い、付加価値を高める人材の恒久的な発掘と育成を行う機能
(2)教育と研究の成果を地域・社会に還元し収益の確保と存在を承認させる機能
(3)教育と研究の質の競争優位性を確保するため戦略構築と実行を行う機能

 これらのうち、(3)は学校経営そのものの中にある独立した機能として成り立ちますが、(1)と(2)はかならずしも単独には存在しえません。特に(2)は産官学協同(もしくは連携)の形でなければ実現しにくいのが現実です。
このことは教育機関として、「自治」だけでは成り立たなくなることを意味します。
 上記の(2)、(3)の機能強化のため、外部との関係で常に評価され選別される以上、自分たちの強みにおいて自己を相対化することが必要となり、そのことが(1)の一層の強化を要求します。
 そしてそれは、自己評価はもちろん、相互評価すら成り立たない環境、すなわち客観的な外部評価と序列化、そして選別と選抜の機能を、多くの企業と同じようにビルトイン(内蔵化・自働化)する必要があるのです。
 この時点で、「自治」だけでなく「開放(公開)」が次に求められる施策であることが分かります。大学(の存在)価値の増大(以下、単に価値の増大という)と事業(理念)の継続の実践のためになすべきこと、それは多くの大学で模索している「オープン化」なのです。


3.大学における「オープン化」の課題

 「オープン化」に対して実践できているのは、現実には「公開(市民)講座」や「オープンキャンパス」、「公開特許」でしょう。限定的な参観はすすめていますが、新教育産業の塾や予備校、専門学校等でもないかぎり、公開授業を行うことは少ないといえます。
 ここでのオープン化とは、もっと根本的な3つの公開を意味します。
 第一は資本のオープン化です。6つの資本(ヒト・モノ・カネ・情報・時間そして知識)です。特に、情報と知識の公開です。
 第二は組織のオープン化です。組織とは責任(成果と役割)、権限(職位と地位)、職務、そして施設です。
 第三のオープン化はマネジメントです。マネジメントとは、計画(戦略)・実行(プロセス)・監査(評価)・実践(行動)、すなわちPDCAです。
 現段階では一部しかオープンになっていませんし、完全なオープン化である必要はありません。情報公開の範疇から出発し、オープン化が完全に実現できたとき、完全な自治が本当に機能しているといえるでしょう。
 つまり、大学の自治とは大学のオープン化の指標であり、品質の称号であり、信頼の証明となるものです。オープン化が進み、相対化ができている大学ほどステークホルダーから信頼されており、その結果、大学の自治が進むのであって、その逆では決してないということです。


4.大学法人の戦略創出機能とイノベーション創発機能の課題

 それでは、大学は大学自身の戦略やイノベーションを発信し誘導してきたでしょうか。
 戦略策定機能が機能不全を起すことなく効果的効率的に活動する前提条件は、収益構造、事業構造、業界構造の3つの構造を明確にした上で、自大学のSWOT(強み・弱み・機会・脅威)を経営環境の中で明確にできるとき、戦略策定機能そのものが意味を持つことになります。
 第一の収益構造は、収益モデル(何で儲ける)、プロセスモデル(何処で儲ける)、ピープル&パーソンモデル(誰が儲ける)の3つのモデルを明確にすることです。自大学の収益構造は何処にあるかを明確にし、どこ(何)で差別化を行っているかを明確にし、誰がそれを実践しているかを明確にすることにあります。
 第二の事業構造は、研究開発機能、情報財の提供機能、管理配分機能の3つを効果的に再配分再配置することにあります。その中で役割展開(業務と権限と責任の明確化)と方針展開(マネジメントとリーダーシップの遂行)を進めていくことになりますが、ここで少なくとも「効率的・効果的」、あるいは「成果思考的・時間的・マイルストーン的」なアプローチが実践されていることが前提です。
 第三の業界構造とは、大学という高等教育産業が単に産業としてではなく、国家の使命と若者の将来を担う中枢的な機能の一つとして社会の負託を担っているという自覚の中で、健全な競争環境を醸成し、その中で独自色を出す高付加価値経営を実現しているか、という点です。

 今日では、高等教育産業においても、他のいかなる産業に負けず劣らずグローバルで戦っています。実際に真の高等教育は圧倒的な欧米支配が続いており、日本の高等教育機関は壊滅的なほどに人材流出現象を食い止めることができないでいます。アジアの他の国に対しても産業としての教育機関を売り込むことに苦慮しているのです。そして、更に残念なことは、そのことに「気がついていながら」なんら抜本的な解決策を見出せていません。
 日本の高等教育産業としてグローバルに展開していることを知り、その中で強みと弱み、機会と脅威を認識すること、そして自分自身を「相対化」できたとき勝つための「戦略」が意味を持ちます。
 大学は、知識と技術を精製(生成)するための人材の設計室であり融合炉にたとえることができます。白紙から知識や技術を作図し、さまざまな人材の組み合わせで融合させています。これらがイノベーションを創発するには、推進力が必要です。戦略と目的と動機が必要です。すなわち知識は戦略を必要とし、技術は目的を必要とし人材は動機を必要とします。
 大学法人が戦略創出し、イノベーションを創発するための課題とは、この推進力そのものを作り出す「種」を失いつつある点にあります。
 現段階では、教育事業および教育業界において大学自ら変革を起し、イノベーションを創発してきたとは言い難いところがあります。
 多くの大学は、業界内において個々に閉鎖的であり、他大学機関のイノベーションに対しても排他的であり傍観的です。それは「供給側の理論」に終始し、「閉ざされた組織」の中で競争を排除してきたからにほかなりません(21世紀大学経営協会)。
 残念ながら、大学はその生成においても、オペレーション過程においても、組織的にも、戦略策定機能を自己完結的に持ち得ないのです。それは長い間の文部科学省行政の影響であり、事業継続ミッションの過度な信奉にあるといえるでしょう。
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