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Business & Economic Review 2009年4月号

【特集 経済・雇用危機への対応】
公共投資の意義を問いなおす-雇用・景気対策としての有効性を高めるために

2009年03月25日 蜂屋勝弘


要約

  1. 景気・雇用対策として公共投資を期待する声が高まっている。昨年打ち出された一連の経済対策においても公共投資に繋がる対策が盛り込まれている。もっとも、わが国では「公共投資悪玉論」が根強く、その効果を疑問視する声も大きい。そこで本稿では、公共投資に対する批判の妥当性を改めて検討してみる。

  2. 90年代の経済対策において大型の公共投資が盛り込まれたにもかかわらず、景気回復に繋がらなかったとされており、今回の局面においても、公共投資による景気押し上げ効果に疑念が持たれている。しかしながら、公共投資の景気に対する効果を注意深くみると、確かに押し上げ効果は低下しているものの、効果が全くなかったとするのは言い過ぎである。90年代の経済対策において、仮に公共投資が追加されていなければ、当時の雇用情勢がさらに悪化していた可能性を否定できない。

  3. 公共投資を拡大しても、財源の大半は利用価値の低い施設の整備に投入され、経済成長力の強化や国民生活の向上といった便益に繋がらないのではないかとの懸念がある。公共投資に対するこうした懸念は、既存の投資配分を前提にしており、公共投資の配分を見直すことで、便益性の高い社会資本が整備されることは可能であろう。さらには、公共投資の対象となる社会資本の範囲として、いわゆる「ハコモノ」にとらわれることなく「ソフト」の資産を含めることで、政府支出全体の構造を見直すことも必要である。

  4. 公共投資を拡大することで、財政赤字が一段と拡大し、その分、基礎的財政収支の黒字化など財政健全化の道筋にも影響が及ぶことが懸念されている。しかしながら、財政健全化の観点からは、景気後退が深刻化・長期化することによる税収への悪影響を考慮することも必要であろう。さらに、公共投資が呼び水となって、将来、景気が回復に転じれば、前回の景気拡大局面でもみられたように法人税を中心に税収の急回復も期待できる。このように考えると、公共投資によって景気を下支えすることは、財政健全化の観点からみても必ずしも的外れとはいえない。

  5. 公共投資拡大への反対論の根拠として、経済規模に比べた大きさを問題にする向きもある。しかし、現在の公共投資の規模をみると、1990年代後半に比べて大幅に縮小しており、公共投資を増やすにあたって規模の面からの制約は弱まっているといえよう。

  6. 公共投資を行うことの意義の一つは、不況期に発生する遊休設備や資源、失業者を社会資本整備などの事業に活用できることである。現在の厳しい景気状況を踏まえると、投資対象を適切に選べば、公共投資の拡大は適切な方針と考えられる。公共投資は政府が発注者となって直に仕事を作り出すことから、減税など他の政策に比べて早く雇用増加の効果が現れると考えられる。加えて、政府が成長戦略などの将来ビジョンとともに、その実現に向けた社会資本整備の方向性を示すことで、民間部門の成長期待を高めることも可能となろう。

  7. 国においては、わが国の国際競争力を高めるような社会資本ストックの整備に徹することが重要である。将来の経済成長や生活向上には、建物や機械設備などの有形資産の整備だけでなく、技術や知識などの無形資産の蓄積が重要と考えられる。公共投資の対象範囲を有形資産への投資から無形資産への投資にも広げて、配分の重点をシフトしていくことが重要となろう。

  8. 地方においては、地域経済の活性化や地域住民の生活の向上に向けた取り組みが求められる。社会資本整備において、地方の役割は重要である。個別の事業の必要性や優先順位を判断する際には、その事業が実施される地域の雇用情勢や産業構造、住民のニーズといった地域固有の事情を考慮する必要があり、公共投資を実施する主体には、こうした事情を熟知していることが求められる。

  9. 公共投資の財源負担構造をみると、直轄事業や補助事業のように財源を国と地方が互いに負担し合う構造となっている。その弊害として、地方主体の公共投資に地域の事情が十分に反映され難くなるとの問題が指摘されており、地方自治体などから見直しを求める声が大きい。直轄事業負担金、補助金については、縮小・廃止の方向で見直すことが望ましい。補助金の縮小・廃止に併せて、財源を一般財源として地方に移譲することが求められる。当面は一括交付金や地方交付税財源への加算による地方への移譲が求められるが、中長期的には税源移譲も視野に入れた見直しが望まれる。
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