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【地域発イノベーションを考える】
中小企業の人手不足対策の選択肢
―企業・業界・地域による雇用にとらわれない多様な人材確保策の必要性

2019年08月14日 佐藤善太


中小企業を苦しめる人手不足
 総人口と生産年齢人口の減少が進むなか、人手不足は深刻さを増している。大企業に比べ知名度・賃金水準等で後れをとる中小企業にとっては、特に深刻な問題である。製造・建設・卸売・小売・サービス業の全ての業種で、中小企業の人手不足感は年々強まっている(※1)。ICTの活用や業務の効率化によって従業員1人あたりの生産性を高める対応も必要となるが、今後もさらに人口減少が進んでいくことを踏まえれば、人材確保の取り組みを同時に進めることが不可欠である。

まずは既存の採用のあり方の見直しを
 中小企業がまず取り組めることとして、既存の人材採用のあり方の見直しがある。例えば、従来新卒・中途経験者採用のみ行ってきた企業であれば、子育てからの復職女性・シニア・外国人等も含めて、採用ターゲットを再設定することも検討すべきであろう。またターゲットにとって魅力的な企業になるため、職務・雇用形態・職場環境を整えることも必要である。採用チャネルについても、ハローワーク・求人情報誌・求人サイト・自社メディア・SNSでの情報発信、教育機関向けの求人募集や合同採用説明会への参加、インターン・リファラル採用の活用などを幅広く検討することが求められる。また、2018年3月の金融庁の監督指針改定による規制緩和で人材紹介業への参入が進んでいる、地方銀行への相談も選択肢となる。
 ただ、昨今の人材市場の状況を鑑みると、仮に上記のような人材採用のあり方の見直しを進めても、期待する結果が得られないこともある。筆者も中小企業支援に携わっているが、魅力的な事業を持ち採用にも力を入れている企業であっても、求める人材の獲得に至らないケースを目にしてきた。そうした企業においては、必ずしも「雇用」というかたちにとらわれない人材確保の方策も検討するべきといえる。

中小企業の選択肢―新しい働き方を取り込む
 自社での「雇用」以外の人材確保の選択肢として、外部の企業の力を借りるアウトソーシングがある。加えて近年、フリーランスへの発注をマッチングするクラウドソーシングサービスや、副業・複業(※2)を営む個人と企業をマッチングするサービスが数多く登場している。依頼できる仕事の分野は、営業代行・営業先紹介から、IT、デザイン、執筆、広報、総務・経理、コンサルティングまで多岐にわたる。特定のスキルを持つ人材の確保を目指しているが採用には至っていない場合や、人材は確保したいものの雇用により固定費を増やすことは避けたい場合などに、こうしたサービスの活用が有効となり得る。
 しかし、2018年7月に関東圏の中小企業を対象として実施された調査(※3)では、兼務・副業の従業員を受け入れていると回答した企業は5.3%にとどまっている。副業・複業といった新しい働き方を取り込み、人材確保につなげる試みが、より多くの中小企業に広がっていくことが望まれる。

業界の選択肢―人材を融通する仕組みをつくる
 個社の取り組みだけでなく、業界全体で人材確保を図る仕組みづくりも重要である。2017年3月に設立したベンチャー企業・株式会社助太刀は、他の業界に比べてもひときわ人手不足が深刻な建設業界の人材確保を支えるアプリを提供している。建設業の現場を支える職人は、専門性が多岐にわたり、かつ個人事業主(一人親方)が多い。加えて下請け構造が何層にも重なるため、元請事業者や施工会社等が適任の職人を必要な人数集めるのに苦労する。助太刀のアプリは、建設現場における人材ニーズと、仕事を求める職人をマッチングすることで、建設業界の人材確保の円滑化に貢献しているのである。助太刀の場合、施工会社から職人への工事代金の支払いを立て替え、職人が即日代金を受け取れるサービス(助太刀Pay)を提供するなど、付帯サービスも拡充させており、アプリユーザー数は5万人を超え拡大している。
 業界内での人材の融通・マッチングの仕組みを整え、現場の人材確保につなげる発想は、人手不足に悩む他の業界でも応用可能である。例えば旅館業でも、旅館同士が労働力やその他のリソースを融通し合うシステムの開発が進行している(※4)

地域の選択肢―多様な働き手と人材ニーズを「まちの人事部」がマッチングする
 近年、地元企業の人材確保や育成を地域単位で円滑化する「まちの人事部」の取り組みも活発化している。神奈川県横浜市・長野県塩尻市・茨城県・新潟県の4地域においては、複業を目指す人材と地域の企業のマッチングを図る事業(#複活)が進められている(※5)。また、広島県安芸高田市では、市内企業がコンソーシアム(あきたかたコンソ)を組成し、加盟企業間による人材の過不足の補完や、人材交流やOff-JTの研修による人材育成に連携して取り組む構想が進められている。
 このほか岡山県奈義町の「まちの人事部」の取り組みにおいては、地元企業が協力を求めたい仕事と、10代から80代まで多世代の町民とをマッチングする「しごとコンビニ」事業が成果を挙げている。「しごとコンビニ」で扱う仕事内容は軽作業から事務作業、販促活動サポートまで幅広い。仕事を望む町民が、事務局のサポートを受けてスキルアップを図りつつ経験を積むことで、多岐にわたる仕事をカバーできる人材が育っている。イラスト・取材と執筆・写真撮影・裁縫など得意な技を持つ町民が集まってチームをつくり、自ら企業のマーケティング支援やマーケット出店といった「小商い」を始めるという派生効果も生まれている。
 こうした「まちの人事部」の取り組みは、地域の人手不足への対応に加え、地域の可能性を引き出し、まちを活性化する方策としても有益といえる。

さらなる人口減少を見据えた「人材確保力」強化の必要性
 中小企業におけるクラウドソーシングや副業・複業人材活用では、適切な人材の選定や、人材の受け入れ環境整備、契約関係の整理など、クリアすべき課題も多い。また業界単位や地域単位の人材確保の取り組みは、多くが開始してまもない状態であり、定着・拡大にはまだ時間を要するものとみられる。
 しかし、今後も人口減少が一層進んでいくことを見据えると、今から新たな取り組みに着手し、その有効性を検証していくことが重要といえる。企業・業界・地域それぞれにおいて、「人材確保力」を高めていくことが望まれる。

(※1)中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業概況調査」において、従業員数不足数DI(従業員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)は、2013年第4四半期以降、全業種でマイナスとなり、以降低下傾向で推移している。
(※2)本業に従事しながら他の収入源を得る「副業」に対し、「複業」は本業・複業の区別なく複数の仕事を持つことを指す。
(※3)株式会社学情・株式会社パーソル総合研究所「兼業・副業による人材の受け入れニーズ調査」。
(※4)旅館向け基幹システム「陣屋コネクスト」をベースに、ユーザーの旅館がリソースを融通し合うシステム「JINYA EXPO」の開発が進行中。詳しくはこちらを参照。
(※5)関東経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業。関東経済産業局から株式会社パソナが受託して行っている。詳しくはこちらを参照。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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