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Post-FITで拡大する電力ビジネスのイノベーション

2019年01月01日 段野孝一郎


FIT導入6年で再エネ買取価格は半減
 世界では、発電コストが高い再生可能エネルギーの導入を進めるために、FIT(Feed-in Tariff)と呼ばれる、再エネからの電力を固定価格で買い取る制度が一般的に用いられている。わが国でも世界の動向を踏まえ、2012年から固定価格買取制度が導入され、再エネ導入が進められてきた。
 固定価格買取制度の導入から6年が経過し、2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー計画では「再生可能エネルギーの主力電源化」が掲げられ、再エネの最大限の導入と、国民負担(買取賦課金負担)の抑制を進める方針が打ち出された。この間、再エネの導入が拡大する一方で、買取価格は低下(10kW以上の太陽光発電の場合、2012年の40円/kWhから、2018年には18円/kWhにまで低下)してきた。

「Post-FIT」に向けた2つの検討
 そのような中、「Post-FIT」に向けた検討が始まっている。
 Post-FITには2つの意味がある。1つは、まさにFIT制度の出口戦略と言うべきもので、FIT制度に頼らなくても再エネの導入が進められる政策・事業環境をいかに整備するか、というものである。もう1つは、FITによる固定価格買取期間が経過した後に、どのように旧FIT電源の電気を活用するか、というものである。
 前者は、グリッドパリティ(系統電力よりもFIT電源の発電原価が安価になる状態)をいかに実現するかの問題といえる。国の政策では、徹底的なコストダウンを促進することで、大型の太陽光と風力発電の価格を卸電力取引市場価格と競争できる水準まで低減させる方針を打ち出している。
 実際、FITが導入されていない米国では、主に税制面でのインセンティブで太陽光・風力の導入が進められており、卸電力取引市場と同等の価格で買取がなされている。環境意識の高いRE100企業などが買手となり、発電所から直接電気を買う「Corporate PPA」と呼ばれる契約で、既に20GW近い再エネ電力の取引が行われている。欧州でも、再エネは原則として市場売電とし、買取価格と市場売電価格の差分を補填する「FIP(Feed-in Premium)」、「CfD(Contract for Difference)」に切り替え、再エネ賦課金の低減とFITからの自立化を推進している。
 後者については、「2012年から20年間の制度運用なのだから、旧FIT電源の活用は2032年以降に考えればよい」のかというと、そうではない。固定価格買取制度に移行する前の2009年から、家庭用の太陽光には余剰電力買取制度が適用されており、これらの電源の買取期間が2019年11月から終了を迎えるためである。既に蓄電池メーカーやPCSメーカーも自家消費ニーズを商機と捉え営業活動を活発化させており、新電力各社も顧客の囲い込み策の一環として様々な余剰電力買取メニューを打ち出している。

「調整力の外部化」がもたらす新たなビジネス
 Post-FITを見据え、FITから形を変えつつ再エネ導入は引き続き拡大すると考えられるが、一方で電力システムにとっては大きな課題である。2018年10~11月に九州電力が6回の出力抑制を実施したように、電力会社の送配電部門は、変動する再エネに対応するためにガス火力の出力調整などが必要になる。その結果として、再エネが増えるほどガス火力の稼働率は低下することになる。既に欧州のE.ONやRWEといった大企業の間では「大規模電源で儲ける時代ではなくなった」として、発電事業や燃料事業を分社化するといった動きが顕在化している。
 ガス火力に代わる調整力として期待されるのは蓄電池やDR(デマンドレスポンス)である。欧州では、これまで電力会社が担ってきた調整力の供給を外部化(市場調達化)することを決め、AI/IoTなどの情報通信技術の進展と相まって、蓄電池アンシラリーサービスやDRサービスなどの新サービスが拡大している。日本でも既に「調整力公募」による調整力の外部化が始まっており、将来的には「需給調整市場」での取引に移行する計画となっている。
 第5次エネルギー計画では2030年のエネルギーミックス目標は据え置かれたが、事業環境は大きく変化していく。Post-FITにおける再エネ活用や蓄電池・DR活用などは、電力ビジネスに関わる事業者にとってチャレンジであるが、一方で新たな事業機会としても期待される。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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