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JRIレビュー Vol.8,No69

欧州経済見通し

2019年07月30日 藤山光雄


ユーロ圏経済は、2016年末以降、堅調な回復が続いていたものの、2018年入り後、輸出の伸び悩みを背景に大きく減速した。一方、イギリスでは、Brexitをめぐる政治の混乱が続くなか、企業や家計を取り巻く不確実性の増大が、設備投資や個人消費の重石となる状況が続いている。

ユーロ圏景気を見通すうえでは、域内景気の牽引役であるドイツ景気の先行きをどうみるかがポイントとなる。そのドイツ景気は、先行き緩やかな回復に向かう見通しである。製造業セクターは、外需減速の一服とともに在庫の圧縮が進み、徐々に低迷から脱すると予想される。さらに、人手不足を背景とした賃上げや省力化投資の活発化などから、これまで景気を下支えしてきた個人消費や設備投資などの内需が、引き続き底堅く推移する見込みである。なお、中長期的な観点からは、中東欧からの移民減少などによる労働力不足がドイツ経済の課題となる。

その他のユーロ圏諸国も、ドイツと同様、良好な雇用・所得環境を背景とした個人消費の拡大が、景気の下支えに寄与するとみている。ただし、イタリアについては、財政不安による金利の高止まりや雇用環境の改善の遅れなどから、内外需ともに低迷が続く公算が大きい。

さらに、ユーロ圏では政治をめぐる不確実性が残る。移民や気候変動などEUが抱える課題が多様化するなか、5月下旬に実施された欧州議会選挙では、環境保護会派や極右会派の存在感が高まる結果となった。一方で、中道二大会派は過半数を割り込み、EUの統合深化に向けた議論が混迷する恐れがある。域内各国でも、ポピュリズム勢力の台頭を受け、政治をめぐる先行き不透明感が燻りつづける見通しである。

一方、イギリスでは、「合意なし離脱」は回避されると予想する。新首相が合意なし離脱を強硬に推し進めたとしても、世論や議会が歯止めとなる公算が大きい。ただし、「合意あり離脱」に至った場合でも、EUや第三国との貿易交渉等の早期決着は期待し難い。Brexitをめぐる先行き不透明感が、企業・消費者マインドの重石となり続けると見込まれる。

以上を踏まえ、景気の先行きを展望すると、ユーロ圏では、外需の減速に歯止めがかかるなか、良好な雇用・所得環境を背景に個人消費が底堅さを維持し、1%台半ばとされる潜在成長率並みの成長ペースになると見込まれる。イギリスでは、Brexitをめぐる不確実性が景気の重石となり、1%強の緩慢な成長が続く見通しである。

リスクシナリオとしては、貿易摩擦の激化やトルコ経済の混乱が想定される。貿易摩擦の激化による米中景気の下振れや自動車関税の引き上げは、欧州の輸出に対する大幅な下押し圧力となる。また、トルコ経済の混乱が深刻化した場合、トルコ向け与信を多く抱える南欧諸国で金融システム不安が生じる恐れがある。
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