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アジア・マンスリー 2019年8月号

2019~20年の中国経済見通し

2019年07月26日 関辰一


昨年までの投資抑制策や米国による関税引き上げによって、中国経済は減速している。今後、米中貿易
摩擦が引き続き重石となるものの、政府の景気対策で失速は回避される見通しである。

もたつく景気回復
中国では、景気減速が続いている。昨年までの投資抑制策の影響が残り、本年初に底入れの兆しがみられた固定資産投資の増勢は足許で再び鈍化している。自動車市場の不振を主因に、小売売上高も伸び悩んでいる。米国による関税引き上げなどによって輸出の増勢も鈍化している。

投資抑制策の柱となったのは、銀行への金融規制の強化と地方財政への監督の強化の2つであった。銀行による簿外取引(いわゆるシャドーバンキング)の縮小や地方での野放図なインフラ投資の見直しによって、与信と債務の急拡大に歯止めがかかった一方、地下鉄や空港、高速道路など数多くのインフラ整備プロジェクトが停止し、民間企業も深刻な資金繰り難に陥った。

とりわけ、地方経済が厳しい。インフラ投資への依存度の低い広東省や江蘇省、浙江省の経済成長率は小幅低下にとどまる一方、依存度の高い内モンゴル自治区や吉林省、天津市、重慶市の経済成長率は2016年の半分程度に落ち込んだ後も低迷が続いている。

こうした地方経済の低迷が、個人消費の重石になっている。自動車販売台数をみても、沿海部大都市でのシェアが高い日本車は堅調である一方、内陸部中小都市で高いシェアを持つ中国ブランド車は前年を大きく下回っている。なお、米国ブランド車も緊張した米中関係が続くなか不振が続いている。

輸出の増勢も鈍化している。昨年7、8月に米トランプ政権が合計500億ドル規模の中国製品の関税率を25%に引き上げ、9月に2,000億ドル規模の中国製品の関税率を10%に引き上げた結果、輸出総額の2割を占める米国向け輸出は昨年末から前年割れが続いている。さらに、他の地域向けも伸び悩んでいる。世界的なIT需要の回復が遅れていることや、Brexit問題に起因する不透明感から、アジアやEUで景気が停滞したからである。

もちろん、弱い動きばかりではない。政府の景気対策によって鉄道投資やスマートフォンなど情報通信機械の需要が拡大している。しかし、投資抑制策のマイナス影響が想定以上に根強く残っているため、景気押し上げ効果がストレートに現れていない。

政策による下支えで景気失速回避
今後を展望すると、政府が景気対策を本格化させているため、成長率は早晩持ち直すと見込まれる。

まず、政府が投資抑制策の手綱を緩めたため、年後半にインフラ投資が持ち直すとみられる。金融面では、預金準備率引き下げなど金融緩和に舵を切った。加えて、政府は銀行に対して簿外取引の縮小の期限を延長したほか、地方でインフラ整備を担う地方融資平台の融資需要に応えるよう要請するなど、金融規制・監督を緩和する方向へ修正した。

財政面でも、需要創造に向けて鉄道などの整備を加速した。地方政府に対しても、地方債発行によるインフラ整備を進めるよう通知した。今後、金融機関による地方債引き受けの拡大で、地方政府の資金繰り難は和らぐとみられる。

民間固定資産投資も、政府の投資促進策を受けて回復に向かう見通しである。政府は春以降、集積回路とソフトウェア産業に対する企業所得税の減免を決定した。重慶市などの地方政府も産業補助金の導入を表明した。このように、中国政府はハイテク製品の内製化に本腰を入れ始めた。これらの投資誘発効果で、足許の民間固定資産投資にも回復の兆しがみられる。

自動車販売も、地方経済の回復や販売てこ入れ策を受けて持ち直しに転じるとみられる。追加の自動車販売てこ入れ策の例として、国家発展改革員会は環境保護や渋滞緩和をねらいとした乗用車ナンバープレート規制の新規導入を禁止し、広東省は既存のナンバープレート規制を緩和した。ちなみに、2019年通年の販売台数は前年比▲6%の2,650万台、2020年は同+4%の2,750万台と見込まれる。自動車製造業の付加価値はGDPの約2%であることを勘案すると、2019年のGDPは自動車産業の不振によって0.12%ポイント押し下げられる一方、2020年は+0.08%ポイント押し上げられることになる。

このように、米中貿易摩擦が引き続き景気の重石となるものの、断固たる姿勢で安定成長を追求する政府の政策運営のもと、中国の実質GDP成長率は2019年が+6.3%、2020年も+6.3%と失速は回避されると見込まれる。
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