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【次世代交通】
地域公共交通と自動運転サービス/法制度との適合性の視点から

2019年07月23日 泰平苑子


 202X年にはこんな生活者の声が聞けるかもしれない。「水墨画のお稽古で行く自治会館で利用登録して、スマホで呼び出すと小型の自動運転車両が乗降ポイントまで来てくれるの。最初、無人の車に戸惑っていたら車内ディスプレーに係の方が映り案内してくれたから安心ね。市街地に買い物に行く時は自治会館横の停留所でバスに乗り換えます。途中で一緒に買い物に行く友人も乗り合いしてきたわ。スマホで降車確定すると決済完了。地域包括支援センターに行くルートはボランティアの方が乗降支援してくれるの。移動サービスの合間を使って宅配もしているそうよ」

 日本の各地で自動運転サービスが利用できる日も遠い未来ではない。「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」では、地方、中山間地域や高度成長期に整備された老朽化の進む大規模住宅団地(オールドニュータウン)など、高齢化が進み人口が減少している地域等での移動手段の確保として、自動運転サービスへの期待が明記された。
 また「道の駅等を拠点とした自動運転サービス 中間とりまとめ」では、ルート上どこでも乗降可能なデマンド型・準定期型のニーズが一定程度あることを明らかにした。自動運転サービスの提供維持のためボランティアによる運行支援などの地域の協力体制の必要性にも言及している。
 さらに「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」では、「運転手以外の乗務員や遠隔地からの状況の把握等」が盛り込まれ、自家用有償旅客運送も同様と記されている。

 さて冒頭に未来像として示した自動運転サービスは、「無人の車に戸惑っていたら車内ディスプレーに係の方が映り案内してくれた」という件から、無人自動運転移動サービス(レベル4)で遠隔型自動運転システムのようだ。これがサービスとして、どのような事業なのか紐解いてみよう。

 自動運転サービスが導入される限定地域は、既存バス路線の撤退や本数減少が進む、公共交通不便地や空白地だろう。冒頭の話の「小型車両・乗合・乗降ポイント・ルート・呼び出し」から、一般乗合旅客自動車運送事業であるデマンド型(予約型)乗合タクシー(区域運行)が想定される。または「利用登録」「ボランティアが同乗」からNPO等が運送する自家用車両を用いた公共交通空白地有償輸送かもしれない。「決済」とあるので、無償輸送ではなさそうだ。このように自動運転サービスは地域公共交通の運行形態に沿うはずだ。または「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」の中間取りまとめにある総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の訪問型サービスDでも、要支援者以外の者を送迎対象に含む場合も介護保険の対象として送迎を許容している。運行形態は地域や利用者に応じた選択が可能だ。

 「今年から」という言葉にも注目して欲しい。通常、地域内公共交通を導入する際、本格運行の前に短期間(1~3年)の試験運行を行う。自動運転サービスが適する運行形態は試行錯誤のプロセスが必要だろう。自動運転サービスは、道路運送法 第21条2号にある乗合旅客運送の例外規定を用いて、一時的な需要のために国土交通大臣の許可を受けて地域及び期間を限定した試験運行を行うことが第一歩となろう。その後の本格運行で事業用の道路運送法4条(旧21条)への移行、または自家用の同法78・79条を選択することになろう。この試験運行でルートや乗降ポイントを含む運行形態、オペレーション、社会受容性や利用実需を確認・検証し、事業計画を更新し、本格運行へ移行する手順である。

 自動運転サービスの事業継続性の観点から「宅配サービス」を提供する貨客混載のアイデアもある。2017年に一般乗合旅客自動車運送事業者は350kg超の貨物の有償運送ができる規制緩和を行った。さらに自家用有償旅客運送者も350kg未満の荷物を運ぶことが可能になったが、実施には事業許可を取得する必要がある。また対象地が過疎地に限定され、その地域条件が自動運転サービスで想定する限定地域より狭いことから自動運転サービスに宅配サービスを付加することは限定的なものに留まるだろう。

 自動運転サービスの社会実装が遠い未来ではないのなら、既存法制度の理解はことのほか重要である。この数年で多くの自動運転関連の実証が進む中、技術検証・受容性検証とともに法制度との適合性(現状、難しい部分は政策提言や規制緩和の提案も不可欠)が未来を現実に変える大きな鍵となる。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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