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日本総研ニュースレター 2019年3月号

2030年まであと11年 SDGs達成貢献のためのイノベーション創出

2019年03月01日 村上芽


2030年は持続可能性のためのマイルストーン
 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を含む、2030年に向けた戦略である「アジェンダ2030」が国連で採択されてから4年目の年となった。目標年まではあと11年、新たな技術やビジネスモデルの開発のために行動を起こす段階に入ってきている。
 サステナビリティ(持続可能性)は未来永続的な概念であるため、おそらく国連は2030年以降の目標もいずれ設定すると考えられる。SDGsが「現状を放置すると、環境や社会の劣化が人々の生活や企業活動にまで相当な悪影響を及ぼす」という強い危機感に立脚することを踏まえると、アジェンダ2030が未達の場合の「次」では、大幅な規制強化を要求するはずである。我々は、アジェンダ2030を人類と地球の豊かさを実現するマイルストーンと位置づけ、産業界を中心に解決のためのイノベーション創出に取り組む必要がある。

上場企業の現状
 イノベーション創出を期待させる動きも見られるようになった。例えば、上場企業を中心に、自社がSDGsに貢献していることを示すため、既存の事業や製品・サービスとSDGsを紐づける企業が増加している。
 日本総研による公開情報調査(2018年5月)では、SDGsについて積極的に開示している企業は237社で、うち約半数の119社が統合報告書を発行していた。自社事業の中長期的な成長が環境・社会課題解決にも貢献する、というプロセスを株主に伝える意思のある企業が119社存在したことになる。例えば、リクルートホールディングスの統合報告書では、自社事業が企業理念の実現ばかりでなく、SDGsの達成にもつながっていくプロセスを描いている。
 こうした統合報告書の大多数では、「現時点で販売開始済みの製品・サービス」が、SDGsのゴールにも結びついていると説明している。環境・社会課題の解決に貢献しながら企業が成長することを求めるESG投資家に対し、すでに果実の見えている製品・サービスを中心に訴えかけていくのは理に適った行動といえる。

SDGs達成貢献に必要な思考法
 ただし、SDGsが求めるのは、深刻な環境・社会課題解決のための「大胆な変革」である。それには、市場に投入済みの「これまでの積み重ねによる改善」に加え、思い切った発想の転換が必要となろう。
 具体的には「自社の製品・サービス発」ではなく、「SDGsのターゲット発」で社会や経済の変化を読み解き、様々なシナリオを想定したうえで、現時点からすべきことを考えていく。特に気候変動の分野で浸透しつつある、バックキャスティングやシナリオ分析という手法を幅広い分野で応用する。
 この場合、発想のスタート地点にSDGs の「17の目標」を置いてしまうとレベルが大き過ぎ、想像力を働かせるのが難しくなる。そこで、17の目標を具体的に示した「169のターゲット」のなかから選んでいくことをお勧めしたい。なお、169のターゲットをベースに社会や経済の変化やシナリオを考える場合、ポイントとなる点は2つある。
 1点目は、「環境・社会課題が放置されると世界はどうなるか」を考えることである。例えば、不動産業の観点から「気候変動」について検討すると、「異常気象の増加」による不動産価値への悪影響が予測されるため、災害に強い物件づくりに取り組む動機が生まれる。また、製薬業では「平均気温の上昇」によってマラリアの広まりが懸念されることから、グラクソ・スミスクラインではマラリアワクチンの開発や、途上国でのワクチンへのアクセス改善に取り組むようになった。
 2点目は、ビジネスに及ぶ脅威として、バリューチェーンを意識することである。例えば、紙や木質製品では森林の管理状況、繊維製品では主にアジアの工場における労働環境といったバリューチェーン上流に目を向けるべきである。また、静脈インフラが未整備のため、適切に廃棄処理できないプラスチック製品の持ち込みを禁じる国も現れはじめており、バリューチェーン下流の問題によって、包装材を含めた販売戦略の変更を迫られるリスクが存在することも認識する必要がある。
 こうした思考を進めると、自社の現状とSDGsの間に存在するギャップを見つけやすくなる。そして、そこを埋めようとすることこそ、持続可能性に貢献するイノベーションにつながるといえよう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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