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日本総研ニュースレター 2019年1月号

副業・兼業がもたらす本業の生産性向上

2019年01月01日 小島明子


不満があっても辞められない中高年男性
 国内の正規雇用従業員を年代別・男女別に見たとき、特に人数が集中しているのが、45~54歳の中高年男性である。今後、多くの企業が継続雇用年齢の引き上げ等の問題に直面することになるが、全体の約3割を占める彼らの処遇と生産性の維持・向上は、その際の大きな課題の一つとなるはずである。
 日本総研では、東京圏の企業に勤める中高年男性(40代後半~50代前半)を計500人に対して「中高年男性社員の意識調査」(以下「意識調査」)を2017年に実施している。そのなかで明らかになったのが、彼らが人事評価に対する満足感を十分に得られていないという実態である。例えば、現在の職場で出世・昇進、報酬に対して満足をしているという回答が約2~3割にとどまる一方、精神的なきつさを感じているという回答は約4割に上った。
 ただし、その会社を辞めてしまいたいかというとそうではなく、彼らの約6割は、今の職場で雇用機会がある限りは転職をしたくない、と回答している。
 さらに、配偶者(妻)が自分のキャリアプランにどのような要望を持っていると思うのかを彼らに尋ねたところ、「現在の勤務先に勤め続けて欲しい」という回答が半数を超えた。その理由としては、「生活費を稼ぐこと」が76.8%と最も多く、続いて、「老後のための貯蓄をする」45.4%となっている。
 職場環境に不満を持ちながらも、家族に対する経済的責任や、妻の意向を気にする中高年男性にとっては、キャリアの自由な選択が難しくなっているのが現実といえる。

副業・兼業に興味
 この意識調査では、現在の勤務先に勤め続けながら行う副業・兼業について、規定を緩和することに賛成する回答者が69.1%に上った。賛成する理由としては、「収入確保の多様化につながる」(59.8%)が最も多く、「社内では得られない新たな経験や知識を獲得できる」(36.2%)、「定年後を視野に入れた再就職のきっかけになる」(34.3%)と続く。さらに、実際に副業・兼業に挑戦をしたい、という回答も、賛成と回答した比率と同程度の約6割に上った。
 副業・兼業に挑戦をしたいと回答した者が、副業・兼業に費やしたいとした時間は、週1日程度(給料がその分減ることを含む)が46.2%と最も多く、続いて業務時間外(退社後や休日)(31.1%)である。週1日程度であれば、その分給料が減っても副業・兼業を行いたいと考える中高年男性が一定割合存在していることが分かる。

副業・兼業の解禁が本業の生産性を向上
 今のところ、実際に行われている副業・兼業としては、インターネット等を活用した起業のほか、農業などの家業の手伝いや保有する資格(例:中小企業診断士)や経験を活用した執筆や講師等などが多く見られる。挑戦のハードルが低い、体力や労働時間の管理がしやすいなど、本業との両立がしやすい業務が副業・兼業として選択される傾向がある。なお、最近では、NPOへの参加等の社会貢献活動やビジネスパーソン向けにスポットコンサルティングの仕事を提供する副業支援会社を活用するケースも増えつつある。
 政府は、労働者の希望に応じて業務時間以外における副業・兼業を認めることを企業に推奨するようになった。2018年1月には、厚生労働省がモデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定を削除した。
 一方、企業側の理解はほとんど進んでいない。長時間労働や情報漏えい等への懸念から、従業員の副業・兼業を認めている企業は少ないのが現状である。
 しかし、従業員が副業・兼業に挑戦することは、得られた経験を本業に還元すること以外にも多くのメリットがある。特に中高年層が副業・兼業を行う場合、彼らが付加価値の低い仕事の順に手放し、結果として給料が相対的に高い層の生産性が向上する可能性がある。特に年功序列型の給与体系が維持されている企業にとっては、業務委譲による若手の育成の面も含めてメリットが大きい。
 例えば、中高年層に対象を絞り、職位、副業・兼業の内容次第で容認していくことは、生産性向上の観点からみて、今からでも検討するべきではないだろうか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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