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独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園の経営改善の分析に係る調査研究事業

2019年05月21日 高津輝章、小幡京加、横内健吾、郷原陸


*本事業は、平成30年度障害者総合福祉推進事業(厚生労働省)として実施したものです。

1. 事業の目的
 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(以下、「のぞみの園」という)では、今後入所者数の減少に伴い、事業収入等の減少が見込まれている。この状況を受けて、平成29年度に開催された「(独)国立のぞみの園の在り方検討会」において取りまとめられた報告書では、のぞみの園における運営の効率化、並びに今後の事業内容および運営体制の見直しの必要性が指摘されている。また、これらの検討に関しては、「運営部門別の収支項目についての分析を行いつつ、人員体制や雇用管理の在り方を含め、早急に実施すべき」とされている。
 現在、のぞみの園では、多様なサービスを総合的に展開していることから、別事業として個別に収支実態を明らかにすべき複数の事業が、財務諸表上は一つのセグメントとしてまとめて取り扱われている。本調査研究事業は、上記の背景の下で、部門別・事業別の業務実態および収支実態、並びに収支構造を明らかにすることにより、のぞみの園の今後の方針や、業務運営の効率化のための具体策を検討する際の材料となる分析資料および示唆を提供することを目的として実施した。

2. 事業の主な内容
(1)業務実態の把握
 ①運営部門別に、のぞみの園における業務の特徴、課題および改善余地を明らかにすること、②各事業に係る業務時間を集計することで事業別の正味の人件費を明らかにすること、の二点を目的として、下記の方法で運営部門並びに事業別の業務量調査を実施した。

調査対象  のぞみの園の部長以下の全職員
(ただし、実務者の負担を考慮し、原則として各部管理職職員による見積・回答とした)
調査方法  実務者インタビュー並びに書面調査(見積法)
調査期間  2018年12月~2019年1月
調査内容  業務内容および1カ月あたりの平均業務量

(2)運営部門並びに事業別収支の把握
 業務量調査結果の結果を踏まえ、人件費やその他の収支の再配賦を行うことで、運営部門別・事業別の収支実態を明らかにした。
 また、収支分析の結果を用いて、将来の収支シミュレーションを実施した。将来の収入および支出を算出する際の一部の前提条件(事業内容の変更あるいは入所者数の推移に関する予測等)は、実務者ヒアリングの中で聴取したのぞみの園の計画を反映して作成した。

3. 調査研究事業の主要な成果
 のぞみの園が実施する各種の障害福祉サービスについて、運営部門並びに事業単位での業務量並びに収支実態を把握することが可能となったことが、本事業の主たる成果である。これにより、運営部門並びに事業毎のサービスコストの把握や、改善すべき事業の特定、改善のための具体的な方針の議論が可能になる。
 以下で、これらの成果の概要を説明する。

(1)業務実態の把握
 分析対象とした事業並びに分析項目は多岐にわたるため、全体の内容は事業報告書第3章第1節を参照いただきたい。ここでは、のぞみの園の中核的な事業である、生活支援部の施設入所支援(13か寮)における分析結果を記す。
 のぞみの園では、施設入所支援を実施している13か寮(調査対象期間である平成29年度の数。平成31年度3月時点では12か寮となっている)を、入所者の特性から①医療的配慮支援グループ、②高齢者支援グループ、③特別支援グループ、④自立支援グループの4グループに分け、それぞれの入所者に適した支援を行っている。
 本調査研究の結果、特に医療的な配慮を必要とする入所者を対象とする①医療的配慮支援グループと、重度の自閉症・行動障害等を有する有期入所者を対象とする③特別支援グループにおいて、日々の生活に係る支援(食事・入浴・排泄の補助のほか、日中活動の支援など)の業務時間が長いことが明らかになった。①医療的配慮支援グループの入所者当たり業務時間が長い要因としては、特に嚥下困難な入所者が多いことから食事補助に多くの時間を要し、また車いすの入所者が多いことから機械浴槽での入浴補助のため、多くの職員を配置していることが挙げられる。③特別支援グループの入所者当たり業務時間が長い要因としては、強度の行動障害者を有する入所者が、安定した生活を送ることができるようになることを目的とした個別プログラムを提供しており、1対1の直接的な支援業務や活動の見守りが多いこと、並びに来園者・見学者の対応や、利用者の個別支援計画・レポートの作成といった間接的業務に多くの時間を充てていること等が挙げられる。
 以上のように、業務量調査を通じて、運営部門別・事業別、あるいは職員別の業務量やその内訳の見える化を図った。これにより、各運営部門において、どの事業の、どのような業務の負荷が大きいのかを明らかにし、今後の運営改善のための施策の検討材料が得られたとともに、のぞみの園の事業の特殊性に由来する業務のボリュームと割合をデータとして定量的に示すことが可能となった。

(2)運営部門並びに事業別収支の把握
 業務量調査の結果を基に、運営部門並びに事業別の収支実態を明らかにした。具体的な数値については、報告書第3章第2節を参照いただきたい。
 収支分析の結果、一部の生活介護事業並びに自動発達支援センター事業を除いた多くの事業において、事業収支がマイナスとなっていることが明らかになった。特に、生活支援部の中でも医療的配慮グループと特別支援グループにおいては、人件費率が高いために事業収支のマイナスも大きかった。また、就労継続支援(B型)など、主に地域の利用者を対象とした事業の中でも、事業収支がマイナスとなっているものが見られた。
 収支シミュレーションでは、①グループごとに寮の数が変化することが見込まれること(具体的には、自立支援グループの寮が減少し、特別支援グループの寮が増加する)、②寮別に、入所者一人につき必要な支援を行うための業務量(および職員数)が異なるため、収支構造も変化すること、を反映した。シミュレーションの結果、入所者一人あたりのケアに要する業務量が少ない自立支援グループが縮小し、逆に入所者一人あたりのケアに要する業務量が多い特別支援グループが拡大することで、収支差のマイナスは拡大すると見込まれる。

(3)今後の施設運営の課題並びに運営改善策に係る考察
 本調査研究事業は現状の正確な把握を一義的な目的として推進したため、運営改善の方向性とその実現可能性については、本調査研究事業の結果も踏まえ、今後具体的な検討がなされる必要があると考える。しかしながら、本調査研究事業の中でも、のぞみの園の職員へのヒアリングおよび有識者ヒアリングを経て、のぞみの園の運営上の課題と運営改善に関する一定の示唆を得られた部分もあることから、報告書の末尾において、日本総研の考察として取りまとめた。
 本調査研究事業を通じて、各運営部門並びに事業の特性、業務実態、収支実態が明らかになった。これらの調査・分析結果と、国立の独立行政法人として果たすべき役割を考慮したうえで、各事業の実施意義、および事業別の改善策を検討していく必要があろう。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
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