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10年後の未来の街を走るクルマを考えるには

2019年04月09日 程塚正史


 2019年2月、トヨタ自動車(以下「トヨタ」)がMaaS専用車両の開発を発表した。従来の「e-パレット」に加え、中長距離をライドシェアするための車両、都市内を移動するための小型車両の3つのラインナップから成る。この一年、トヨタだけでなく欧州のメーカーからも、従来の自家用車向けではない自動車のコンセプト発表が相次いでいる。

 ”CASE(Connected=コネクティッド化、Autonomous=自動化、Share=シェア化、Electricity=電動化)”という言葉が象徴するように、技術進化や社会環境変化を起点として、自動車関連産業には従来の発展経路の延長とは異なる変化が生まれている。その変化は、車両の使われ方を起点として、モノとしての自動車そのものにも影響を与えるはずだ。10年後の街を走るクルマの形が、今とまったく同じだとは絶対に考えられない。

 コネクティッド化関連の技術は、車両と都市、車両と人をつなぐ技術である。都市とつながれた車両は、都市管理システムや不特定多数の人と情報(車両位置、稼働状況など)を共有し、公共・半公共的な役割を強めるようになるだろう。所有者あるいは利用者個人とつながれた車両ではカスタマイズサービスが歓迎され、適宜ダウンロードできる様々なアプリケーションが利用できるようになるだろう。それらのアプリは運転支援だけでなくエンタメ系やビジネス系など幅広い用途となり、自動車の中で過ごす時間の密度を高めるだろう。その効果を最大化するために、電装系はじめ自動車の内外装も変わることになるだろう。

 このような変化は、自動化によってさらに強められるだろう。なぜなら少なくとも特定の街区では自動走行ができるようになることで無人バスが条件付きで可能になったり、少なくとも乗車中の一部の時間は運転から解放された状態になったりするからだ。

 従来とは異なる使われ方を想定した自動車そのものの変化は、グローバル規模で起きる。ただしその変化が起きるタイミングは国や地域によって異なると思われる。日本総研では、変化がいち早く顕在化するのは中国市場となる可能性を想定している。

 なぜなら中国では、既存の自動車メーカーよりもサービス化を促すIT企業の影響力が大きい。また、日米欧主導の自動車産業の競争軸を変えようとする政策意図があり、その政策を推進する政府の指導力が強い。そして都市人口は今後10年で1.5億人以上増え、クルマの容れ物となる都市のインフラ整備・更新が急ピッチで進んでいる。

 より具体的には、ライドシェアは既に都市部での近距離移動に不可欠なサービスに成長しており、最大手の滴滴出行(DiDi)は、大量の移動データを活用して交通マネジメント事業に乗り出している。自動運転技術の開発も百度(Baidu)やPony.aiなどテックベンチャーによって活発に進められている。5Gの整備は華為などの設備を用いて中国移動など通信事業者が推し進めており、その上で阿里巴巴(Alibaba)や騰訊(Tencent)などがスマートシティシステムや車両向けアプリ開発を進めている。

 もちろん、変化がどの時点でどこまで進むのか、どの地域でどの事業者が先頭を走ることになるのか、まだ分からないことが多い。だからこそ上記のような仮説をもとに、クルマの変化の方向性について、中国市場を材料として検討する価値は大いにあると考えられる。日本総研では、トヨタがMaaS専用車両を発表したのと同じ2月、「中国モビリティサービス市場研究会」を設立した。中国市場の動向を分析し、そこで求められる車両関連サービスを検討することで、改めて10年後のクルマのあり方を構想しようとするものだ。100年に一度とも言われる自動車関連産業の変化の時代である今、微力ながら日本総研も、将来のクルマやクルマを活用するサービスの構想づくりやその事業化を進めていきたいと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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