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介護保険サービスと保険外サービスの組合せ等に関する調査研究事業

2019年04月10日 辻本まりえ齊木大岡元真希子


*本事業は、平成30年度老人保健事業推進費補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の目的
 平成29年6月9日に閣議決定された規制改革実施計画における「介護保険内・外サービスの柔軟な組み合わせの実現」の事項のうち、訪問介護における同時一体的な提供、保険サービスと関係する保険外サービスに係る柔軟な価格設定について考え方を整理するとともに、厚生労働省通知(老振発0928第1号)に対する自治体(保険者)等の対応等の実態を把握することにより、「介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせ」に関する考え方を取りまとめることを目的として実施した。

2.事業の主な内容
(1) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する対応状況の把握
 厚生労働省通知「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(老振発0928 第1号)に対する都道府県及び保険者、事業者の対応の状況を把握するため、以下の方法で実態調査を実施した。
① 自治体向けアンケート調査
 調査対象  全都道府県ならびに保険者
 調査方法  電子メール添付による送付、電子メール添付による回収
 調査期間  平成30年11月30日~12月25日(締切)※平成31年1月15日到着分まで受付
 調査対象  47都道府県、1,571保険者
 有効回収数 41都道府県(87.2%)、1,031保険者(65.6%)
 調査内容  自治体基礎情報、通知に係る周知・啓発の対象ならびに方法
 通知に対する事業者からの問い合わせ等の有無とその内容

② 自治体向けヒアリング調査
 調査期間  平成30年11月~平成31年2月
 調査方法  訪問調査または電話によるヒアリング調査
 調査対象  平成29年度、30年度調査の回答内容により選定した36自治体
 調査内容  通知に対する事業者からの問い合わせ内容の詳細ならびに自治体としての対応状況

③ 事業者向けヒアリング調査
 調査期間  平成30年12月~平成31年2月
 調査方法  訪問調査または電話によるヒアリング調査
 調査対象数 3事業者
 調査対象  全国的にサービス展開をしている大手介護事業者
 調査内容  介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせたサービス提供
      の状況、通知に関する受け止め方など

(2) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する検討
 平成29年6月9日に閣議決定された規制改革実施計画における「介護保険内・外サービスの柔軟な組み合わせの実現」に掲げられた事項のうち、平成30年度から検討開始の事項(訪問介護における同時一体的な提供)および平成29年度に引き続き平成30年度も検討する事項(保険サービスと関係する保険外サービスに係る柔軟な価格設定)の考え方を整理した。

(3) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する考え方のとりまとめ
 上記(1)(2)を踏まえ、介護保険サービスとの組み合わせた提供にとどまらず、拡大が見込まれる保険外サービスにおいて、今後検討すべき事項をとりまとめた。

(4) 有識者会議での検討
 有識者・関係団体等と厚生労働省で構成する有識者委員会を設置し、上記(1)(2)(3)の結果について確認及び検討を実施した。全4回開催した。

3.調査研究事業の主要な成果
(1) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する対応状況の把握
 通知にかかる周知啓発は、小規模自治体であるほど実施していない割合が高い。通知に関する問い合わせを受けたことがあったのは、都道府県の41.5%、保険者の7.2%であった。問い合わせの内容としては、通知に記載されている事項(例: 事業の運営規定や会計区分、人員配置等)について、具体的にどのような方法で実施すればよいかという質問や、「このような保険外サービスとの組み合わせは認められるのか」といった確認が多く見られた。また、事業者からは、通知により方針の転換があったと評価する意見と、通知は従来の方針と変わらないという意見の両方があった。自治体においても、通知により通所介護事業所における移動販売の扱いなどが明確になった点と評価する意見もあれば、通知の具体的な運用が自治体の判断に任されている点を不安視する意見もあった。
 自治体・事業者への調査の結果、認められる組み合わせの内容や実施方法が不明確であり、またそれについて地域差が発生し得ることが第一の課題である。また、保険外サービスについて、市町村の中の所管部署が定まっていないこと、国・都道府県・市町村のうちどの階層が所管するのかが定まっていないことが第二の課題である。最後に、保険外サービスを介護保険サービスと組み合わせて提供する場合に接点を持つ事業者の責任分界が不明確であることが第三の課題である。組み合わせる保険外サービスを選定した介護事業者、利用者にサービス提供する保険外サービス事業者、保険外サービスについて把握していたケアマネジャーが、どのような場合にどこまで責任を持つのかが不明確であると感じられている。
 これらの課題を解消し両サービスの組み合わせを推進するためには、組み合わせが認められる場合の手順や手続き、自治体による解釈などを明文化し蓄積するという取り組みが考えられる。また、保険外サービスの所管を定める、あるいは優良事業者を認証するような民間主導の取り組みも考えられる。

(2) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する検討
 本調査研究の検討の結果より、介護保険サービスと保険外サービスの柔軟な組み合わせの実現を目指すのであれば、以下の課題について検討の積み重ねが必要であるとした。
訪問介護サービスにおける柔軟な組み合わせの実現等
 (ア)利用者への丁寧な説明の在り方の検討
 利用者への丁寧な説明については、①利用者が理解しやすい説明の方法、②利用者が両サービスを組み合わせて利用することについて十分に理解したことの確認・担保の方法などについて、今後検討していく必要がある。
 (イ)利用者のエンパワメント方策の検討
 介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供することについて、介護保険サービスの目的である利用者の自立支援・重度化防止を阻害してはならない。一方で、保険外サービスは民間サービスであるため、利用者の愚行権をある程度は認めても良いのではないかという意見もある。また、認知機能が低下する高齢者に対しいても、どのようにその意思決定を支援していくべきかについても、今後さらなる検討が必要となる。
 (ウ)介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合のマネジメントの在り方の検討
 両サービスを組み合わせて提供することについて、利用者の自立支援・重度化防止を阻害せず、利用者本人にとって不必要な介護保険給付が行われないような適切なマネジメントが必要である。併せて、保険外サービスにおける補償といった面についても、今後検討していく必要がある。

保険サービスと関係する保険外サービスに係る柔軟な価格設定の在り方
 現在の法制度において認められている以上の柔軟な価格設定、具体的には繁忙期・繁忙時間帯における時間指定料や特定の介護職員を指名する指名料の導入は、介護サービスの供給体制への影響や、社会保険としての公平性の阻害といった観点から、避けるべきであると考えられる。一方で、今後これらの柔軟な価格設定の可能性を検討するのであれば、指名料等の仕組みが取り込まれた場合の介護サービス供給体制の安定性の検証、一般的な高齢者(世帯)における自己負担額の受容性の検証、介護保険制度のコスト構造の明確化が必要となるだろう。
 特に、利用者や利用者家族の生活を尊重した場合に、繁忙期・繁忙時間帯における介護需要の発生自体を平準化することは難しい。その場合には、繁忙期・繁忙時間帯に介護保険のサービス供給を確保する施策を検討するべきだろう。複数の先行研究より、介護人材の労働市場は一般の労働市場とは異なり、独自のモデルで動いている可能性が指摘されている。例えば、介護人材の就業の際の条件は、給与水準以外の就業の条件(距離や労働時間帯など)の影響も大きい。今後、柔軟な価格設定を実現しようとするならば、介護人材の労働市場を想定したうえで推計を行うことが必要である。

(3) 介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせに関する考え方のとりまとめ
 本調査研究では、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせた提供を推進することにとどまらず、介護保険サービスの提供や、保険外サービスを単独で活用する場合においても、自費サービスの進行や保険の適正給付の観点から、保険外サービスに関する検討は、避けては通れない課題である。拡大が見込まれる保険外サービスについて、今後、以下の事項について検討するべきと提言した。
 ①保険外サービスを活用する意義の再確認
 ②保険外サービスの品質保証、事故対応のあり方
 ③高齢者への意思決定支援における対応
 ④ケアマネジャーの業務範囲

介護保険サービスと保険外サービスの組合せ等に関する調査研究事業 報告書(PDF:2,229KB)


本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター コンサルタント 辻本 まりえ
TEL: 03-6833-8761   E-mail: tsujimoto.marie@jri.co.jp
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