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特別養護老人ホームにおける更なるサービスの提供の在り方に関する調査研究事業

2019年04月10日 紀伊信之福田隆士、小幡京加、川添真友、濱田樹


*本事業は、平成30年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.調査研究の目的
 高齢者向け施設・住まいの選択肢の増加や団塊世代の高齢化による入居者ニーズの多様化に伴い、特別養護老人ホームにおいても、入居者一人ひとりが人生の最終段階まで自分らしく暮らしていくため、一層多様なニーズへの対応が求められるようになった。
 また、各地域で地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが進む中、各種設備のほか、介護に関わる人材やノウハウを持つ特別養護老人ホームには、地域における福祉の中核拠点として様々な役割が期待されている。
 一方、深刻化する人材不足を含め、特別養護老人ホームの運営・経営を取り巻く環境は厳しくなっていることも事実であり、こうした中で、入居者ならびに地域住民の多様なニーズに対応するためには、様々なハードル・課題が存在することが想定される。
 そこで、特別養護老人ホームがそれぞれの創意工夫で入居者や地域住民の多様なニーズにどのように対応しているか、また、対応に向けた課題としてどのようなことがあるかを明らかにし、今後の特別養護老人ホームの運営のあり方の検討や支援の施策検討に資する基礎資料とすることが本調査研究の目的である。

2.調査研究の概要
 特別養護老人ホームの運営や多様なサービス提供について知見のある有識者および実務者から成る検討委員会を構成し、全4回の委員会を開催して検討を重ねつつ、下記を実施した。
(1)既存ルールの整理
 特別養護老人ホームにおける多様なサービス(介護保険対象外のサービスを含む)に関する実態調査の前提として、関連する法令・ルールについて確認・整理を行った。
(2)特別養護老人ホームに対するアンケート調査(4,500件発送、1,042票回収)
 特別養護老人ホームに対して、入居者向けの様々なサービス、地域住民向けの様々なサービスそれぞれの提供実態、きっかけ、実施効果、課題等について郵送アンケート調査を実施した。
(3)特別養護老人ホームの入居者家族に対するアンケート調査
 (1施設に10票同封し、45,000票を施設経由で配布。4,651票回収)
 家族への依頼・配布・回収を上記のアンケート依頼先施設に協力いただく形で、特別養護老人ホーム入居者の家族を対象に、サービスの利用経験や利用意向に関するアンケート調査を実施した。
(4)特別養護老人ホームに対するヒアリング調査(10件)
 公開情報並びに、上記のアンケート調査にて入居者あるいは地域住民向けサービスとして特徴的な取り組みを行っている施設にヒアリング調査を実施し、サービス提供の背景、内容、課題等について確認した。

3.主な調査研究結果
【入居者向けサービス】
<多様なサービスの提供実態>
 行事や医療機関への付き添い等は多くの施設で無償(通常のサービス費用の範囲内)で実施されている。外食、旅行・外出、趣味・習い事、買い物の購入代金、理美容・アロマ・マッサージ、リハビリなど、提供にかかる実費が明確なものに関しては、実費部分を入居者や家族に負担してもらって提供している割合が一定数ある。
 一方、遠方への外出の同行などであっても、同行する施設スタッフの手間・人件費等について追加費用を入居者に負担してもらっている割合は極めて少ない。

<家族のニーズと追加費用の支払い意向>
 入居者の家族の意見として、様々なサービスについて「無償で実施してほしい」という意見が多い一方で、「リハビリ専門職によるマンツーマン等の特別なリハビリ・機能訓練」、「誕生日や記念日の特別な食事メニュー」、「家族の結婚式などの冠婚葬祭の付き添い・同行」等複数の項目に関して「そのために特別な費用を払ってもよいので実施してほしい」という回答が1割以上あった。

<多様なサービスを実施する効果>
 これらの多様なサービスについては、本人や家族の要望に加え、施設で働くスタッフが発案者となっている場合も多く、スタッフのモチベーションにつながっていることが確認された。特に、外食・買い物・外出同行や、ネイル・マッサージ等のスタッフが直接的に入居者に「癒しや潤い」を提供するもの、リハビリや特別な療法など、入居者の身体・生活機能の維持・改善を図るようなサービスに関してスタッフのモチベーション向上効果が高い。

<サービス提供における課題>
 こうした多様なニーズに対応するサービスを提供する際の最大の課題は「人手の確保」であり、そもそもニーズを把握するに当たって「ご本人とゆっくり話す時間・余裕がない」という意見も半数近くあった。

【地域住民向けサービス】
<多様なサービスの提供実態>
 「地域住民が参加するお祭り」、「近隣の学校に対する福祉教育」、「福祉避難所、防災訓練、住民向けの災害用品の備蓄」等に加え、「介護保険制度に関する情報提供」、「住民向けの認知症に関する啓発活動」、「高齢者の暮らしに役立つ地域資源に関する情報提供」といった情報提供や啓発活動、設備をいかした「地域住民同士の交流の場の提供」、「地域住民向けの介護予防、体操教室」、「認知症カフェ」等を実施している割合も高い。
 有償サービスとして一般的な「食事宅配サービス」や、住民同士の交流の場の場所代、カフェやサロンでの飲食代等を除き、多くは「無償」での提供となっている。

<提供理由と効果>
 サービス内容によって、「住民からの要望を受けて実施しているもの」と、「地域住民との交流を増やす」「スタッフのモチベーション向上」「入居者の満足度向上」等施設側の意向によって実施している側面が強いものとに分かれた。
 「食事宅配」や「移動支援サービス」のほか、「介護技術など介護に役立つノウハウの情報提供」、「介護保険制度に関する情報提供」、「介護に取組む家族の相談対応」、「仕事と介護の両立に関するセミナー等の情報提供、相談受付」などの介護に関する情報提供や相談に関わるものは住民の要望に基づき実施されている側面が強く、実際の住民からの評価も高い。

<サービス提供における課題>
 入居者向けのサービスと同様、「人手の確保」がネックになっているとする意見が目立つ。「移動支援」や「外出同行」等については法律的に実施してよいかの判断が難しいという意見もあった。
 また、地域住民向けのサービスについては、ニーズや地域課題の主たる把握方法が入居者家族、ボランティアスタッフからの聞き取りとなっており、半数の施設がニーズ把握における課題として「地域住民と接する機会が少ない」ことを挙げている。加えて、入居者向けのサービスと異なり、「サービスを考え、企画する人・体制がない」という施設側の体制上の課題も目立つ結果となっている。

4.調査結果からの示唆
【入居者向けサービス】
 外出、買い物、趣味、各種の療法による身体機能維持等の多様なニーズに対応することは入居者の生活の質を高めることに加え、施設で働くスタッフのやりがい・モチベーションにもつながるという意味で極めて重要であるが、同時にその担い手の確保が課題である。今後、ますます人材不足が深刻化する中では、全てを施設の従業員で対応することには限界がある。入居者側から一定の追加費用の支払意向も示唆されることから、スタッフのモチベ―ションに配慮しながら、専門サービスやボランティアなどの外部人材の有効活用や有償プログラム化など、新たなサービス提供のあり方を模索する必要がある。

【地域住民向けサービス】
 特別養護老人ホームの人材やノウハウを生かした「介護技術などの情報提供」、「介護に取組む家族の相談対応」等の介護に関わる情報提供や相談機能について、地域住民からの期待と評価が高く、こうした期待は今後ますます高まっていくと考えられる。  
 しかし、現時点では必ずしも地域住民との接点が十分ではなく、住民ニーズや地域課題の把握に課題を感じる施設が少なくない。地域の課題を解決することを特別養護老人ホームの「本来業務の一部」として明確に位置付け、そのための組織や体制を整えた上で、地域のニーズ・課題の把握とその解決に取り組むことが重要である。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書本編】

本件に関するお問い合わせ
 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
 部長(シニアマネジャー) 紀伊信之
 TEL:06-6479-5352 E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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