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第8期に向けた介護人材の需給推計ワークシートの開発に関する調査研究事業

2019年04月10日 福田隆士山崎香織


*本事業は、平成30年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.調査研究の背景・目的
 地域包括ケアシステムの構築を進めていくうえでの資源面での課題としては、財政的な制約に加え、人的資源の制約が指摘される。現状、地域包括ケアシステム構築に必要な人的資源が十分に把握・検討できていないケースもあり、将来に必要とされる人的資源の規模の推計、有効な施策検討が効果的に実施できない懸念がある。
 厚生労働省の公表資料において、2025年には数十万人の介護人材需給ギャップが生じるとの推計が示されているが、これは自然体推計に基づくものであることに留意する必要がある。現状の推計は、国・自治体等で展開されている施策の効果や従事する人材の意向・考え方の変化などを十分に考慮できていない面があり、効果的な施策の検討や、適切な施策推進につなげることは簡単ではないと考えられる。
 厚生労働省は平成26年度に介護人材の需給推計ワークシートの策定、各都道府県への配布を行い、各都道府県で需給推計が実施された。平成29年度にも各都道府県で需給推計が実施され、厚生労働省から結果が公表されている。これまでに、需給推計の実施に加えて、需給推計結果を活用した離職防止・定着促進、生産性向上といった施策が推進されている。
 需給推計においては、医療・介護の役割分担の変化、地域全体で介護人材を確保する視点、介護ロボットや新たな介護技術等のイノベーションを踏まえた介護人材の需要のあり方についても検討を行うべきとの指摘があり、継続的な見直し、精度のさらなる向上を目指すことが求められている。
 今後の需給推計の精度向上、有用性向上に資するワークシート開発においては、上述の考え方を踏まえた検討を進めることが必要である。精度向上や施策への有効活用を念頭に置いたワークシートの検討にあたっては、以下の点に留意し、推進することが必要である。
 ①運用を考慮した検討
 ②推計に用いるパラメータの多様化・詳細化
 ③人材の意向・仕事に関する考え方等の考慮
 ④実人数(頭数)だけではなく、常勤換算での検討

 本検討の狙いは、介護人材需給推計の精度をさらに向上させたうえで、推計結果が人材確保施策検討の基礎資料として有効に活用され、施策検討・改善のツールとしてもワークシートが利用されることである。そのためには需要と供給のギャップの単なる把握に留まらない活用、検証のPDCAサイクルの実現までを見据えた検討を行うことが重要である。
 本調査研究では、上述の背景・課題認識を踏まえ、その出発点として、需給推計の精度を高め、より適切かつ詳細に介護人材の必要量を把握できるよう次期推計に活用するワークシートの開発の方向性についての整理を行うことを目的とし、各種調査、検討を実施した。

2.調査方法・進め方
 本調査研究は以下の実施内容、進め方で検討を行った。

(1)検討委員会における検討
 本調査研究を進めるにあたり、各種検討等を円滑かつ効果的なものとするために、介護人材の確保等に関する有識者、実務者、事業者団体等で構成した検討委員会を設置し、各種検討を実施した。検討委員会は3回実施した。

(2)介護人材の需給推計に関する実態把握
 介護人材の需給推計の実態を整理するために、前回推計(第7期)の実施状況および活用状況、次期推計(第8期)に関する課題認識や期待等について、都道府県・政令市の介護人材の需給推計担当者へのヒアリング・アンケート調査を実施した。

(3)過去の推計値を用いたシミュレーション
 第7期推計の推計データを用いて、全都道府県が全国値を用いた場合や都道府県値を用いた場合などいくつかのパターン設定を行い、パターンごとに供給値の推計結果にどのような差異が生じるかのシミュレーションを実施した。なお、シミュレーションは将来の離職率、将来の再就職率、将来の新規入職者数など、都道府県の担当者が数値を設定する余地の多い供給面に主に着目して実施した。

(4)既存データの活用可能性の検討
 過年度事業およびヒアリング・アンケート調査の結果などから、今後の需給推計の精度向上、活用促進に向けては、サービス種別、職種別、勤務形態別など、より詳細な区分での推計、データ活用が必要であると考えられるものの、既存データの範囲で対応できるか否かの整理はなされていない。新たにデータを整備しなくてはならないことも想定されるため、これまでの介護人材の需給推計に活用されていた介護労働実態調査個票データ、職業紹介実績報告データ等の既存データが、より詳細な区分での推計に活用可能かの確認・検討を実施した。

(5)課題の整理、ワークシートおよび運用のあり方の検討
 (1)~(4)における検討を踏まえ、現状の需給推計の課題を整理したうえで、介護人材需給推計ワークシートおよびその運用のあり方について検討を実施した。
検討は主に以下の点を論点として実施した。
 ・需給推計精度向上のためのワークシートの改善点
 ・施策検討に活用しやすいデータセットの整備方法
 ・需給推計結果を活用した運用のあり方

(6)次期ワークシート構成・内容(案)の設計
 (1)~(5)における検討を踏まえ、次期ワークシートの構成・内容(案)の設計、検討委員会での検討を行い、改定案として整理した。

(7)報告書とりまとめ
 (1)~(6)における検討を踏まえ、報告書のとりまとめを実施した。

3.結果の概要・考察
(1)需給推計の実態把握と課題整理
 これまでに実施されている需給推計について、実施状況・内容の精査、ヒアリングおよびアンケート調査等を実施し、現状の推計における課題は以下の通り整理した。

【現状の需給推計実施、結果の活用に係る課題】
 ・供給推計のさらなる精度向上にはより細かな区分で検討を行うことが期待される。
 ・常勤換算推計へのニーズもあることから、常勤換算での推計実施は必要と考えられる。精度も考慮した実施方法の検討が必要となる。
 ・将来の社会環境の変化を考慮できるような仕組みが望ましい(参考値を参照できるようにする、等)。
 ・今後の計画検討に反映しやすいタイミング等を考慮した推計スケジュールの検討が期待される。
 ・施策検討につなげやすい需給推計の枠組みの整理、考え方等の整理が必要である。全体の傾向把握に加えて、個別の施策検討の際の重点対象等の検討に活用できるとよい。
 ・市区町村での取り組みにも活用しやすい結果の提示、枠組み設計が期待される。

 現行の需給推計における課題の整理を踏まえ、今後の需給推計実施に向けたワークシート改定および運用のあり方を検討するに際して、以下の3点を主な検討課題とした。

【主な検討すべき事項】
 ①精度向上のためのワークシートの見直し
 ②施策検討に活用しやすいデータセットの整備
 ③推計結果を活用した運用のあり方の検討

(2)課題に対応したワークシートおよび推計のあり方の検討
 上述した今後のワークシートの改定、運用のあり方を検討するに際して設定した検討課題に対して、それぞれの観点から検討を実施した結果は以下の通り。

①精度向上のためのワークシートの見直し
【把握が望ましいデータの区分・項目】
 サービス種別、勤務形態(常勤/非常勤)、職種、従事者の年齢構成、性別、勤務法人属性、地域特性

【活用が可能な既存データ】
(離職率・再就職率について)
 サービス区分/種類別、法人属性別、勤務形態別、法人属性別、職種別、地域別
(新規入職者数について)
 勤務形態別、職種別、法人属性別

【そのほか人材の流出入に影響する可能性がある要因】
 性別、年齢階層、勤務形態、最終学歴、配偶関係、子の有無、生計維持者の有無、親との同居の有無、本人の現在の職種、本人の前職の職種、配偶者の職種、転職回数、勤続年数、企業規模、勤務地の立地、入職時の経済環境、職場環境、有効求人倍率

②施策検討に活用しやすいデータセットの整備
【詳細区分での推計が必要な項目】
・都道府県および市区町村からは供給推計についてもサービス区分別等の細かな区分でのデータの把握が期待されている
・サービス区分については現行でも把握可能なデータがあり、活用も難しくないと考えられ、次期推計時には反映することが望まれる
・施策検討等も考慮すると、都道府県としては「入所系」、「訪問系」、「通所系」の3区分、市区町村では「地域密着型サービス」について把握できる項目での供給推計が望まれる

【より細かな区分での把握が期待されるデータおよび整備における課題】
・「勤務形態別」、「職種別」、「従業者年齢層別」、「地域別」についてはデータ整備の優先度が高いと考えられる
・人的資源の制約もあることから、負荷が小さい方法でのデータ整備の仕組みの検討が必要となる

③推計結果を活用した運用のあり方の検討
・需給状況の把握は検討の「きっかけ」となるが、具体的な施策や優先順位づけには、見える化システム、レセプト情報等のデータと組み合わせた分析、検討、あるいは必要に応じて独自の調査の実施などが必要となる
・さらなる検討を踏まえ、運用プロセスに関して、先行的に独自調査を実施している自治体の具体的な取組の内容を参考例として示していくことも重要となる
・PDCAを運用するためには、各種計画検討に着手するタイミングなども考慮して、全体のスケジュールを設計する必要がある

(3)ワークシート・推計の改定に係る検討
【主な改定内容(案)】
・供給に関して「サービス区分別(入所・訪問・通所系)+地域密着型サービス」での推計を実施する
・「常勤換算」での推計を実施する
・将来の離職率等のパラメータ設定に際して、各パラメータに影響を与える可能性がある要素を参考情報として参照できるようにする

 今後の需給推計の実施に向けた、推計の精度向上、施策への活用のためのワークシートおよび運用のあり方の検討においては、以下の点に留意して推進することが必要であると考えられる。
・現行より詳細な区分での推計の実施
・今後の環境変化を考慮したワークシート設計
・人材確保策の検討に結果を活用するための要件整理
・市区町村への展開も見据えた推計のあり方検討

 本事業の検討を通じて挙げられた今後の検討課題は以下の通り。
・推計開始年度の取り扱い
・サービス種別ごとの労働者の特性を考慮した推計の検討
・各種パラメータが介護人材の需給状況に与える影響の検討
・行政と介護事業者が一体となった検討の推進


※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書本編】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
TEL: 03-6833-5201   E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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