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アジア・マンスリー 2019年4月号

インドのスタートアップへ高まる期待

2019年03月29日 岩崎薫里


インドでスタートアップ(ベンチャー企業)の立ち上げが活発化している。将来的にはインドが中国に次ぐスタートアップ大国になるとの期待が盛り上がり、世界中からスタートアップへの投資・買収資金が流入している。

■スタートアップ立ち上げの活発化
インドはこれまでオフショア開発(システムやソフトウェア開発の海外事業者等への委託)および海外BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング、IT運用業務や間接業務等の海外移転)の世界的な拠点として広く知られてきたが、近年、世界の主要企業がITの研究開発拠点をインドに設立している。そうして蓄積された知識、技術、人材を基盤としたスタートアップの立ち上げがここにきて活発化し、インドはスタートアップ創出の地としても注目されるようになっている。インドのIT企業の業界団体NASSCOMによると、技術系スタートアップだけでも、2016年以降、毎年1,000社以上が誕生している。スタートアップのなかからはユニコーン、すなわち推定評価額10億ドル以上の未上場企業になるまでに大きく成長するところも14社出現している(調査会社CB Insights集計、2018年11月末時点)。

インドのスタートアップは、先進国で成功した事業やビジネスモデルを取り入れて自国で事業展開するタイムマシン型が中心である。ただし、成功しているスタートアップは、単に先進国企業をコピーするのではなく、インドの事情に合わせて修正を加えている。電子商取引であれば、インドの劣悪な物流網に対処するための独自の物流システムの構築、クレジットカードの普及率の低さに対応した代金引換サービスの導入、などである。一方、最近ではAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、データ分析などの先端技術をフルに活用したスタートアップや、インドが抱えるさまざまな社会課題の解決に挑むスタートアップも徐々に増えている。

■投資資金の流入と政策面からの後押し
インドのスタートアップに対しては世界中から注目が集まっている。中国が過去10年ほどで瞬く間にアメリカに次ぐ世界第2位のスタートアップ大国に登りつめたのを目の当たりにして、同じく巨大な人口を抱え、高成長を続けるインドがこれから中国と同じコースをたどり、次のスタートアップ大国になることへの期待による。それを映じて、インドのスタートアップへの投資が増加し、世界のベンチャーキャピタル投資額に占めるインド向けの割合は5.7%と、一定の存在感を示すまでになった(2017年、右図)。また、投資元も従来のアメリカ中心から、日本、中国、韓国など多様化している。

機関投資家による投資と並行して、一般事業会社による投資や買収も増えている。これには目的別に2つの流れがある。1つ目が、インドのスタートアップの保有する高い技術や優秀な人材を自社に取り込むためのものである。アメリカの大手IT企業による買収はこの目的のものが多い。2つ目が、インド市場を取り込むためのものである。インドは2024年には中国を抜いて世界一の人口大国になると予想されているうえ、人口構成が若く、生産年齢人口の増大に伴う経済成長への恩恵(人口ボーナス)が当面続くと見込まれる。そうした市場としての将来性に着目し、今から地盤を固めようとの意図が働いている。

政策面では、モディ政権がスタートアップ促進策として「Startup India」を進めている。インド国内でスタートアップの成長を促すことで、持続的な経済成長と雇用機会の創出につなげることを目指すものである。その具体策であるアクションプラン(2016年1月公表)は、①諸手続きの簡略化、②資金支援とインセンティブの付与、③産学連携とインキュベーションの促進、の3つの柱からなる(右表)。中央政府による促進策に呼応して、地方政府も相次いで促進策を打ち出しており、全国各地でスタートアップの誘致競争が繰り広げられている。

■経済全体への恩恵波及に向けた課題
インドにおけるスタートアップの立ち上げが本格化したのはここ数年であり、いまだ発展の初期段階にある。このため、不慣れな起業家、未整備な周辺環境、不十分な支援体制のもとで苦戦するスタートアップも多い。しかし、投資マネーの流入増や政府による促進策といった支援材料により、事業環境は今後、徐々に改善していくと予想される。

もっとも、スタートアップの立ち上げの活発化が、特定企業・分野を潤すにとどまらず、生産性の向上や雇用の増加などインド経済に広く恩恵を及ぼすためには、事業インフラ全般の改善が重要となる。例えば、スタートアップのなかには、事業は国内中心にもかかわらず事業インフラが整備されたシンガポールやアメリカに本社を置くところが少なからず存在する。モディ政権下での経済改革の結果、世界銀行による「ビジネスのしやすさランキング」でインドは2016年の130位から2018年には77位まで順位を大幅に上げた。しかし、絶対水準としては依然として低く、とくに不動産登記、契約履行、納税などの面で改善の余地が大きい。事業インフラの改善に向けた息の長い取り組みが求められよう。
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