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アジア・マンスリー 2019年4月号

中国の景気対策が本格化

2019年03月29日 関辰一


中国政府は19年入り後、融資拡大や減税、地方債発行の前倒し等の景気対策を相次いで打ち出している。これらの結果、深刻な不況入りは回避できると見込まれる一方、構造問題への対応が遅れる恐れもある。

■景気重視スタンスにシフト
このところ、中国景気の減速が一段と明確化している。2018年10~12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+6.4%と3四半期連続で低下した。さらに、輸入が失速するなど、リーマン・ショックが発生した2008年、チャイナ・ショックが生じた2015年と似た景気変調の動きがみられる。

最大の景気押し下げ要因は、固定資産投資のスローダウンである。とりわけ、製造業の設備投資が弱い。低迷している設備稼働率は、設備過剰感が強まっていることを示唆する。設備投資の動向を反映する資本財の輸入も大幅に減少している。こうした投資不振は、政府が与信や債務の拡大を抑制するデレバレッジ政策を強化したことが原因である。

しかし、予想以上の投資冷え込みに危機感を抱いた習近平政権は、行き過ぎたデレバレッジ政策を見直し、安定成長を重視するスタンスにシフトした。全人代の初日(2019年3月5日)に発表された政府活動報告でも、財政出動と金融緩和によって、景気の大幅な下振れを断固回避する姿勢が明確に打ち出された。

中国政府が講じる景気対策は、設備投資拡大策、インフラ投資促進策、消費刺激策の3つに分けられる。

第1に、設備投資拡大策として早々に打ち出されたのが金融緩和である。中国人民銀行は、2019年1月15日と25日に預金準備率を0.5%ポイントずつ引き下げた。ここ1年の引き下げ幅はチャイナ・ショックのときを上回るペースである。これにより、金融機関が中国人民銀行に無利子で預け入れなければならない資金が減る分、金融機関は企業の設備投資や個人の住宅購入のための融資を増やすことができるようになった。さらに、政府は金融機関に対して企業向け融資の拡大と貸出金利の引き下げを求めている。

また、全人代で示された企業向け減税と社会保障費負担軽減も、設備投資刺激策として位置づけられる。具体的には、①付加価値税率引き下げ(製造業など16%→13%、運輸業など10%→9%)、②中小企業向けの各種減税、③年金など社会保障費の事業者負担率引き下げと公的負担率の引き上げ、の3つが柱である。政府によると、これらの措置によって企業の税負担と社会保障費負担を約2兆元軽減できるという。なお、1月9日に開かれた国務院常務会議によると、中小企業向けの企業所得税や付加価値税、資源税、都市土地使用税などの減税は2021年までの時限措置である。

第2に、インフラ投資促進策としては、1月9日の国務院常務会議で地方債発行の前倒しが打ち出された。例年は、3月に開かれる全人代で地方債の発行限度枠が承認され、それを受けて地方政府が地方債を発行し、インフラ整備や土地収用のための資金を調達する。今回は、地方債発行の承認が1月に前倒しになったため、新疆ウルムチ自治区を皮切りに、北京市、広東省などの地方政府が相次ぎ発行に踏み切った。全人代でも、地方債の一つである特別地方債の2019年の発行枠を2.15兆元と、前年から8,000億元引き上げた。

第3に、消費刺激策としては、自動車や家電に対する購入補助金が導入された。例えば、すでに北京市政府は、テレビや冷蔵庫など15種類の家電について販売価格の8~20%の補助金を支給すると発表した。2月1日から3年間の時限措置であり、同市戸籍者や居住者が対象である。全人代では、雇用安定化に向けた職業訓練(のべ1,500万人規模)が追加されたほか、個人所得税減税、育児や介護に対する優遇措置などの実施を改めて強調した。

■景気減速に歯止め
では、これらの施策の効果をどうみるべきか。まず、設備投資拡大策は、すぐさま設備投資の拡大に繋がるとは考えにくい。中国企業は、過剰設備と過剰債務を抱えているからである。2016年から昨年にかけて、中国では情報化や製造工程自動化のための設備投資が大きく盛り上がった。過去数年間の投資拡大が急ピッチだったため、設備過剰感が和らぐには相当の時間を要する。また、企業債務残高の対GDP比は、すでにバブル期の日本を上回る。利払い負担が重いため、企業はさらなる借入拡大に慎重になりがちである。企業の資金需要の金利弾力性が大きく低下しているため、金融緩和によっても設備投資は盛り上がりにくいだろう。

一方、インフラ投資促進策は、着実な効果を発揮するとみられる。今年1月に463億元の地方債を発行した浙江省政府は、調達した資金を道路整備や学校建設、汚水処理などに用いると表明している。これに次ぐ発行規模の河南省は、鉄道整備やバラック地域の再開発、病院建設などに資金をあてる予定である。すでに1月単月で地方債の発行規模は計4,180億元に達した。これは、2018年1~6月の発行額の30%に相当する。

また、消費刺激策も、景気減速に歯止めをかけるのに大きく貢献するとみられる。自動車や家電への補助金は相応の規模になるとみられるからである。大幅な発行拡大が予定されている地方債で調達した資金は、インフラ投資だけでなく、消費刺激に用いることもできる。ちなみに、テレビや冷蔵庫はすでに普及が一巡しているが、自動車の普及率は依然として7人に1台と日本の2人に1台に遠く及ばない段階にあることを踏まえると、自動車への補助金はより効果的と考えられる。
以上のように、中国政府の景気対策は、インフラ投資や自動車販売の持ち直しに相当な効果を発揮すると判断され、中国景気は深刻な不況入りを回避できるとみられる。2019年1~3月期までは景気減速が続くものの、4~6月期以降はいったん減速に歯止めがかかる見通しである。

しかしながら、このような景気対策は、地方政府の財政健全化を棚上げにして実現したものといえる。さらに、過剰設備と過剰債務の問題を深刻化させる恐れもある。もちろん、習近平政権もこの点を十分に理解している。とはいえ、政権の安定運営のために背に腹はかえられず、金融財政政策による景気てこ入れをせずにはいられない状況である。今回の景気対策は、現状を放置すると大変なことになるという政権の強い危機感を反映したものといえよう。
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