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【次世代交通】
第2回 個人が主体的に選択するデータ利活用の可能性

2019年03月26日 逸見 拓弘


 交通の分野に限らず、利用者の個人情報や個人に紐づく情報(以下では個人情報や個人に紐づく情報をまとめて「個人データ」と呼ぶ)は、事業者によって収集され、自社のビジネスに活用されることが専らである。特に近年では、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表されるような、個人データを収集して自社ビジネスに利活用して多額の利潤を獲得する事業者の台頭がめざましい。しかし、本来個人データは個人の所有物であり、事業者の所有物ではない。個人が自身の個人データをコントロールできるようにし、個人の意思で事業者へ提供・運用して十分な恩恵を受けることができる枠組みを設計して、無断で事業者に個人データを利用されない制度を構築することが急務である。

 個人自身が個人データをコントロールできるようにすることは、実は個人側だけでなく事業者側にもメリットを生む余地も大きい。個人自身が自ら個人データを統合することで、これまで集約が実現していなかった個人データの集約が実現され、データの価値が高まるといったケースが一例だ。例えば、複数のECで購入した商品の購入履歴を個人が一括管理し、個人の判断でEC事業者に提供するのであれば、EC事業者は他社ECでの購入履歴も知ることができるようになり、従来できなかった観点での自社サービス分析が可能となる。結果として、サービス向上につなげることができるだろう。また、過去の複数の診察履歴を個人が一括管理し、個人の判断で医師に提供するのであれば、医師は過去の診察履歴を参考として、より適切な診断を下すことができるようになるだろう。

 交通の分野でも、日々の生活行動データや各種交通機関での決済データを個人が一括管理し、個人の判断で行政へ提供するのであれば、行政はパーソントリップ調査等の各種行政調査の経費を大幅に削減でき、その分の経費を公共サービスやインフラ整備に活用できる。また、これまでは10年に一度しか知り得なかった地域住民の移動状況をより頻繁に把握できるようになり、公共交通の一層の効率化・充実化を図ることができる可能性も生まれる。

 EUでは、2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)を施行され、個人データの所有権は個人に帰属することが明確にと規定された。GDPRでは、特定のサービスで取得された個人データを他のサービスでも再利用できる「データポータビリティ権」や、個人データを個人の判断で管理者側から削除できる「削除権」などが明記され、欧州圏を市場とする各ITプラットフォーム企業はこの規定を遵守するような個人データ利活用システムの開発を加速させている。個人起点の個人データ利活用によって市場を席巻しているといえる企業はまだ出現していないが、EU圏でそのような企業が出現するのも時間の問題であろう。

 一方で、日本国内では、個人データ利活用に関する政府の指針が具体化されていないために、各ITプラットフォーム企業により個人データ取り扱いに関する考え方の足並みが揃わず、システム開発の方向性も異なっているという現状がある。日本国内でも、各企業のデータ利活用ステムの開発を加速させるためにも、まずは政府が、個人データの帰属や個人が行使できる権利、個人データ利活用の際の規則など、個人データの取り扱い全般に関する指針を具体的に示していくべきであろう

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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