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社会と共創するラストマイルモビリティ

2019年03月12日 泰平苑子


 インドにいた頃、オートリキシャとサイクルリキシャは生活に欠かせなかった。駅前からモールへ行く時は、オートリキシャの運転手と一緒に「モール(に行くよ)!モール(に行くよ)!」と呼び込みをした。二拠点間の移動需要が多い場合、乗合定路線(ply routeと呼ぶ)となり、片道40ルピーを乗客人数で割る、というルールが存在する。4人乗れば10ルピーだ。一方、駅前から住宅街に行く際は、小回りが利くサイクルリキシャが便利。この場合、乗合ではなく専有の乗用(door-to-door serviceと呼ぶ)になる。駅前に集まる運転手に目的地を伝え、価格を提案してもらう。聞き回らず、数人に一斉に言わせるのが味噌で、これで適正価格に落ち着く。これはオートリキシャのdoor-to-door service利用でも一緒だ。同じ短距離でも、路地を通るならサイクルリキシャ、大通りを通るならオートリキシャが便利である。最近は配車アプリやメーターの利用が進み、交渉も味気なくなったが、このラストマイルモビリティは地域社会の一部になっているとも言え、車種選定や利用方法や価格決定のあり方を住民は良く理解している。
 南アジアや東南アジアでは、地域内での短距離移動手段としてラストマイルモビリティは広く普及している。インドネシアのオジェック、フィリピンのトライシクル、ベトナムのセーオム、タイのトゥクトゥクなどがそうだ。これらは国内共通に画一的なサービスを提供するのではなく、地域ごとに最適化されている。先程の事例はインドのデリー郊外のものだが、他地域では異なる地元ルールが存在するだろう。その地域の移動需要に合わせて、年月をかけてサービス内容が最適化されるのだ。

 他方、高度経済成長と共に、自家用車の保有が進み、公共交通も整備された日本では、地域内の短距離移動に特化したラストマイルモビリティは根付いていない。人々は自家用車で短距離から長距離まで移動し、路線バスで短距離から中距離を移動してきた。しかし、高齢化による免許返納や路線バスの赤字による撤退などで、移動手段に困る人々が増えてきている。自分の住む地域に末永く安心して暮らすために、ラストマイルモビリティが求められている。この場合、ラストマイルモビリティのサービス内容をパッケージ化し、各地域に展開するのは難しそうだ。住民構成も地理特性も交通状況も異なると移動需要も異なるものとなり、自ずとサービス内容も変わってくるだろう。
 地域にラストマイルモビリティを導入する際は、事業者のみで実施計画を検討せず、地域住民の積極的な参加が重要だと考えている。その地域特性や移動需要は地域固有のものであり、それを良く知るのは住民の皆さんだ。ラストマイルモビリティにおいて住民の皆さんは利用者であり、提供者でもあり得る。彼らの生活移動から、実施計画に必要な運行時間やルートやポイントなどが見えてくるからだ。住民の皆さんに積極的に検討や運営に参加してもらうことで、徐々にその地域のラストマイルモビリティ像が定まってくる。そのサービス内容は年月をかけて試行と検証を繰り返すことで、地域に最適化されていくだろう。

 ラストマイルモビリティのために、必要な法規制をはじめ柔軟性を持たせた枠組みプラットフォームを提供し、地域に最適化できるよう地域住民との共創の仕組みを整備することが、日本におけるラストマイルモビリティの社会実装につながるのではないかと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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