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【シニア】
第34回 Shift↑リビングラボ(仮称)活動報告「はたらくこと」編

2019年02月14日 岡元真希子


 日本総研では、株式会社ダスキンが運営する「わこう暮らしの生き活きサービスプラザ」(以下、プラザ)や、ハウス食品グループ本社株式会社が八千代市社会福祉協議会と連携して運営する「八千代リビングラボ」において、「Shift↑リビングラボ(仮称)」の手法開発を行ってきました。「Shift↑リビングラボ(仮称)」の特徴は、新しい商品や社会課題の解決策を生み出すだけでなく、活動に参加するシニアが「自分を再発見する、ワクワクがよみがえる」ことを目指す拠点であることです。

 前回のメールマガジンでは、「暮らし方・住まい方」をテーマとした「Shift↑リビングラボ(仮称)」をご紹介しましたが、今回は、2018年9月~11月に和光市内と八千代市内で実施した「はたらくこと」について実施した活動の様子をご報告したいと思います。

 日本総研と連携してリビングラボを開催している拠点にはそれぞれ特徴があります。手芸などのプログラムが充実していて女性が多いサロン、運動を多く取り入れて健康への意識が高い人が多く参加しているサロン、午前中に開催されて、新聞を読みながらお茶を飲むなど男性の参加が多いサロンなどさまざまです。リビングラボのテーマによって、どのサロンに協力をお願いするのが良いかを検討するところから企画は始まります。今回のリビングラボでは「はたらくこと」について語っていただけそうな、男性の比率が高いサロンも含め、3カ所で開催しました。

 参加してくださったのは60~80代の25人で、うち70代の方が12人、80代の方が9人でした。夫婦の世帯の方が13人、一人暮らしの方が6人でした。男性の割合が比較的高く、男性12人、女性13人でした。

 今回のテーマ「はたらく」は、賃金労働だけを指すわけではありません。サロンなどで高齢者のお話を聞いていると、「はたらきたい」というのは「人の役に立ちたい」と同義だと感じます。「傍(はた)」にいる人を「楽」にするという意味で、「はたらく」高齢者はたくさんいます。サロンでお話を聞いていると、共働きの娘夫婦に代わって孫の保育園の送り迎えをしたり、町内会の役員の仕事で奔走したり、ボランティアとしてお弁当を作って一人暮らしの方に届けたりと、いろいろな形で「はたらく」様子を耳にします。

 現在、公的年金の受給開始年齢として70歳超を選択できるようにすることや、希望する高齢者には70歳まで就業機会を提供することが政策的に議論されています。しかし実際のところ、高齢者は「働く」ことについてどのように考えているのでしょうか。意識調査などの回答のなかにも、働きたいという高齢者は一定割合いますが、何を目的として、どのように働きたいと考えているのでしょうか。今回の「Shift↑リビングラボ(仮称)」は、高齢者が「はたらくこと」についてどのように感じ、考えているのかをお聞きするとともに、高齢者同士の情報交換を通じて「そういうはたらきかたもあるんだ」という気づきの場にもなるように意図して企画をしました。

 リビングラボの参加者の就労経験は多種多様でした。同じ会社を長く勤めあげた方、自営の方もいれば、ご主人の転勤に伴って転居する先々でいろいろな仕事を経験した方など、多様でした。現在は就労していない人がほとんどでしたが、中には、自営のお店を続けている方、不定期で依頼を受けて自宅でパソコンでの仕事をしている方、週に数回のパートで働いている方、シルバー人材センターの紹介で仕事をしている方などもいました。

 お話を伺うにあたり、就労に限定せずに、「はたらくこと」を捉えるため、日頃していることを書き出してもらい、そのなかで、「やるべきだと思ってやっていること」「楽しみのためにやっていること」などに分類してもらいました。「やるべき」という使命感を感じている活動は、広い意味での仕事にあたるとも考えられます。女性でも男性でも、炊事・洗濯・掃除などの家事を「やるべきこと」と捉えているのはもちろんのこと、ウォーキングやラジオ体操などの運動も「やるべき」と捉えていました。運動によって健康を維持して子供などに迷惑をかけない、という意味では広義の「はたらく」と捉えることもできるかもしれません。また、自治会活動、防犯パトロール、ボランティアなどの地域での活動も、「やるべき仕事」として捉えられています。さらに親族の中の仕事や、趣味の活動での役割を挙げる人もいました。例えば「年一回の墓参り」「親族の小旅行の企画」のほか、「親族のなかで最年長の男性なので頼られる。親族の相談に乗るのも自分の役割だと思う」といった回答もありました。趣味のスポーツを仲間と続けるために、公園や運動場の整備について行政に陳情してきたことを熱く語ってくださる方もいました。

 「働く」というと、就労あるいはボランティア活動への参加をついイメージしがちですが、家族・親族、近所の人、趣味の仲間のために役に立ちたいという気持ちから、使命感を持って行っている活動は、広い意味での「はたらく」にあたるといえるのではないでしょうか。ほんの小さなお手伝いであっても「はたらく」ことの一つです。今回のリビングラボのように、あえて書き出して分類することがなければ特段意識せずに日常的に行っていることを、あえてラベリングして「仕事」として浮かび上がらせる結果になったと感じました。

 そういう意味では、イヴァン・イリイチが言う「シャドウ・ワーク」の代表例である主婦の仕事は、「やるべきこと」のかたまりです。今回、「はたらくこと」をテーマに募集したため、参加者のなかで就労経験がない人はわずかでしたが、なかには「主婦歴60年。もうリタイアしたい」とおっしゃる方もいました。しかしリビングラボでグループごとにお話が深まっていくと、「私もお勤めをしてみたい」とおっしゃって、シルバー人材センターの紹介で仕事をしたことがある高齢者に、身を乗り出して質問をされていました。自分とさほど年齢も変わらない人が働いているのを見て、刺激をうけたのでしょうか。高齢者同士だからこそ、「自分にもできるかもしれない」と、自分が就労しているイメージがわいたのかもしれません。「主婦しかしたことがない私でもできるような内容の仕事なの?」と詳しく尋ねている様子を拝見して、まさに「Shift↑リビングラボ(仮称)」で、高齢者の意識が変わる場面を目の当たりにしたように感じました。

 これからも「Shift↑リビングラボ(仮称)」を通じて、参加したシニアに楽しんでいただきながら「自分を再発見する」機会を提供していきたいと考えています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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