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役員報酬制度の設計に際して(2)

2019年02月08日 綾高徳


 役員報酬制度の設計について、実際にコンサルティングに関わってきた経験から、いくつかの見解を提示していきたいと思います。第2回となる今回は「役員の報酬ポートフォリオと報酬項目間構成比率」の設計について筆者の考えを述べます。

報酬ポートフォリオ
 報酬ポートフォリオは、報酬項目の全体像を整理するためのフレームワークです。
 役員の報酬項目は「報酬の性質」と「インセンティブを発揮させる時間軸」の掛け算で決まります。結果として報酬項目の選択肢は多くなり、報酬項目の全体像を検討する構想設計の段階で、報酬ポートフォリオを用いた整理が欠かせません。

 筆者の考える役員の報酬ポートフォリオのフレームワークは、図1のとおりです。
 縦軸には「報酬の性質」として固定報酬か業績連動報酬かの区分、さらに業績連動報酬については現金報酬か株式報酬かの区分を置きます。横軸には「インセンティブを発揮させる時間軸」としてSTI(短期的報酬:事業年度単位)、MTI(中期的報酬:中期経営計画期間単位)、LTI(長期的報酬:3年以上の長期期間単位)の区分を置くことで、合計9つの報酬セグメントによるフレームワークを形成します。
 少し前までは横軸をSTI(短期的報酬)とLTI(中長期的報酬)の2区分、合計6つの報酬セグメントで捉えることが多かったのですが、近年の高度化する「報酬ポリシー(報酬方針)」を的確に制度として具現化しようとすれば、中長期的報酬はMTIとLTIに切り分けた方が整理しやすいと考えるためです。MTIは中期経営計画に対応したスパン、つまり3~5年で捉え、LTIはもっと長いスパンで評価しなければ意味がない企業価値の向上や社会課題への貢献に対応します。これらをLTIとしてひとまとめにして議論してしまうと、やはり無理が生じてしまいます。
 もちろん初めて株式報酬を導入されるような会社では、6つの報酬セグメントで捉えた方が議論に入りやすいケースもあると思います。フレームワークの選択は、自社の制度設計の発展段階(ステージ)に応じて行うことが望ましいと考えます。

図1:役員の報酬ポートフォリオ(再構築イメージ)


出所:筆者作成


 報酬ポートフォリオのフレームワークを定めたら、その上に各報酬項目を配置(プロット)していきます。9つの報酬セグメントの「どこに」「どのような」報酬項目をプロットすれば制度としてうまく機能するのか、それは自社の経営戦略と整合しているか、ガバナンスとインセンティブの相反はないのか、といったことを構想設計の段階で議論し尽くすことが重要です。この部分に消化不良があれば、肝心な軸が定まっていないのですから、構想設計と詳細設計との間を行ったり来たりして非生産的な時間を費やすことになりかねません。
 報酬項目のプロットに関して、筆者は「業績連動報酬を全ての期間(横軸:STI、MTI、LTI)に配置すること」が重要であると考えます。業績連動報酬は事後の報酬ガバナンスを担う役務対価として機能することは当然として、年度計画・中期経営計画・企業価値の向上といったそれぞれの期間成果に対して経営努力の発揮を動機付けるとともに(誘因機能)、各計画の達成に向けたコミットをステークホルダーに示すことができるからです(コミュニケーション機能)。出来上がった報酬ポートフォリオは、業績連動報酬を戦略的に活用できているのかという視点で確認すると良いと思います。

報酬項目間構成比率
 報酬ポートフォリオを整理したのち、報酬項目間構成比率(%)の設計に移ります。報酬項目間構成比率とは、報酬ポートフォリオ上にプロットした各報酬項目の総額報酬(年俸)に占める割合を表します。図1(右側、新案)を例に取ると報酬項目間構成比率は、基本報酬65%:賞与20%:株式報酬15%(内訳としてPS10%+RS5%)=総額報酬(年俸)100%となります。
 役員報酬の設計においては、報酬項目間構成比率を構想設計の段階で決めておくことが肝要です。逆に、各報酬項目の詳細を先に設計してしまい、「その結果として」報酬項目間構成比率が事後的に決まるというのは避けねばなりません。報酬ポートフォリオ上にプロットした報酬項目それぞれに、どのようなインセンティブの配分(アロケーション)を描くのか、設計主体にはまずターゲットとなる報酬項目間構成比率が事前にあって、これを念頭に各報酬項目の詳細設計に入るイメージで進めていくことが重要です。
 報酬ポートフォリオと報酬項目間構成比率を、構想設計の段階で一体的に検討する理由はこの点にあります。

 報酬項目間構成比率の水準をどの程度に設定すべきかについては、自社の状況(現行水準、報酬ポリシー、財務状況)と世間比較を併せ見ながら設定していきます。世間比較は業界として役員報酬制度改革が進んでいる場合は比較集団が、そうでない場合は先進企業群の平均値がベンチマークとなります。ほとんどの会社にとって欧米の調査事例や日本取締役協会が提言している水準に、一足飛びに移行することは現実的ではありません。コンサルティングの現場では、先進企業群として例えばJPX400やTOPIX500を構成する企業の平均値をベンチマークにするケースが少なくありません。参考までにJPX400のうち監査役会設置会社306社の報酬間構成比率(平均値)は、およそ基本報酬65%:賞与(業績報酬含む)25%:株式報酬10%となっています(日本総研調査、2018年8月1日時点)。
 
 本稿では役員報酬制度の設計において、構想設計の段階で報酬ポートフォリオと報酬項目間構成比率を一体的に設計することの重要性について述べました。
 次回は役員の役位フレームと基本報酬の内部構造設計について述べます。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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