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SIB普及に向けた条件 ~求められる事業の客観性~

2018年11月01日 大島裕司


政府、自治体、民間からの関心の高まり
 ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)は、社会課題解決のための新たな官民連携手法として注目され、平成28年度には、神戸市と八王子市においてヘルスケア分野を対象とした国内初の本格的な事業が開始された。両市のモデルは、ともに経済産業省の事業として日本総研や日本財団の支援の下で組成され、現時点で想定を上回る成果を上げ、順調に推移している。
 現在、政府ではSIB普及に向けて本腰を入れ始めており、地方創生の基本方針である「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」に、地域課題の解決を図る手法としてSIBの普及を促進していくことが明記された。また、全市町村を対象に日本総研が実施したSIBに対するアンケート調査(ソーシャル・インパクト・ボンドの普及に向けた課題と展望)では、約8割の自治体がSIBに興味・関心を示すなど、自治体側でもSIBへの期待が高まっている。
 さらにはビジネスチャンスと捉える民間企業の関心の高まりもあり、国内のSIBは着実に盛り上がりを見せている。

SIBの特徴と適用範囲
 SIBは、(a)社会課題解決のために必要な初期費用を民間の資金で賄い、(b)社会課題に資する成果を達成したかどうかを確認、(c)成果があったと判断された場合に、成果達成により削減される行政コストを原資に行政から資金提供者へ支払いがなされる、という仕組みが基本となる。言わば、行政が民間から「成果を購入する事業」ともいえる。
 海外では、SIBは就労支援、生活困窮者対策等での適用事例が多い。一方で、SIBを施設の整備に絡める動きもある。例えば、PFI(公共施設等の設計・施工(整備)、運営・維持管理を民間資金・ノウハウにて実施すること)の運営・維持管理部分の対価は、通常、施設整備の部分と同じく行政から割賦で支払われる。この運営・維持管理部分のうち、清掃等の維持管理業務以外のサービスにおいて、より高い成果が期待できる成果報酬型のSIB適用の検討が始まっている(例: 整備された施設内で実施される高齢者健康増進プログラム)。

SIBになじまない領域も存在
 SIBは、官民双方から期待を集めつつあるものの、前述の(a)~(c)の特徴を活かしてこそ実施意義がある。そのため、SIBとして事業を行うには、①行政が解決したい社会課題解決に資すること、②行政コストの削減に資すること、③成果と紐づく測定可能な指標(成果指標)が設定できること、という条件を満たす必要がある。例えば、地域住民のQOL(生活の質)の向上(①)を最終的なゴールとする先述の神戸市と八王子市の取り組みは、医療費の削減(②)にも貢献し、③もクリアしている。
 一方、「十分な教育環境にない子供への対策」といったテーマは、SIB組成のハードルが高い。これは①としての意義が大きく、自治体の関心も高いものの、②との関係性の証明が難しいからである。さらに、成果(例: 大学進学)が発現するまでに10年以上の期間が必要となり、成果報酬型のSIBにあてはめると、支払いまでが長期になり過ぎてしまう。
 また、先述のPFIの施設整備部分へもSIBは適用しにくい(TIF(Tax Increment Financing)の場合を除く)。施設整備コストを賄うだけの行政コスト削減は難しいからである。
 つまりSIBは万能なわけではなく、(c)の行政コストの削減効果が不十分なままで事業が組成されることは、行政の「成果購入の判断基準」を曖昧にさせ、結果として無駄な税金の投入機会を増やす恐れさえある。

SIBの将来
 SIBは、公共交通のような「行政負担は大きいが、地域に欠かせないサービスの維持」等への適用の期待が大きいことが、先述のアンケート調査の結果から分かっている。
 適用の際は、対象課題が表面上は赤字であっても、その社会的価値が貨幣化されること(SROI: 社会投資収益率による評価・分析)で、行政としての課題対応への重要度が明確になる。また、民間側も対応可否、投資規模等の判断が容易となる。
 行政コストの削減額、あるいは課題が持つ社会的価値の客観化・見える化を進めることが、SIBを普及させる重要なポイントとなる。そのためにも国や各種機関による客観化・見える化に向けたガイドラインやコスト情報の整備が求められる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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