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【シニア】
第33回 Shift↑リビングラボ(仮称)活動報告 「住まい方・暮らし方」編

2019年01月16日 岡元真希子


 日本総研では、(株)ダスキンが運営する「わこう暮らしの生き活きサービスプラザ」(以下、プラザ)や、ハウス食品グループ本社(株)が八千代市社会福祉協議会と連携して運営する「八千代リビングラボ」において、「Shift↑リビングラボ(仮称)」の手法開発を行ってきました。一般に、リビングラボとは、商品開発や街づくりなどの課題解決を目指して、生活者である住民と、企業や自治体、大学や研究機関などが一緒に活動する場を指します。「Shift↑リビングラボ(仮称)」は、参加者のなかで生活者、とりわけ高齢の生活者に注目するのが新しい点です。そこでは、新しい商品や社会課題の解決策が生み出されるだけでなく、活動に参加するシニアが「自分を再発見する、ワクワクがよみがえる」ような場にしていきたいと考えています。

 実際、2018年9月~11月には、和光市内・八千代市内で「暮らし方・住まい方」をテーマに「Shift↑リビングラボ(仮称)」を試行的に開催しました。参加してくださったのは60代~90代の25人、中心は70代の方(19人)です。女性が23人、男性が2人で、サロン等での活動に参加するなど、日頃から活発な生活を送っておられます。しかし活動的に暮らしている人でも、実は身体機能が低下している場合が少なくありません。参加者の中には「階段を昇るときに手すりを使う」「転ぶのではないかと不安がある」など、身体機能が低下している人も見られました。

 今回、明らかにしたかったのは「終の棲家に望むことは何か」というニーズですが、従来のインタビュー形式でそのような質問をしても、いきいきとした回答を引き出せないことが多くありました。聞かれて答えるという形式の中でシニアが受身になってしまったり、終の棲家に移り住んだ自分の暮らしをうまく想像できなかったり、あるいはそもそも考えたくない気持ちがあったりするためです。「終の棲家」について自分事として考え、「こうしたい」という望みを語ることを通じてシニアが「自分を再発見」できるよう、シニアが能動的に参加するような仕掛けを作りたいと考えました。

 そこで、仮に住み替えるとしたら、どういう家に住みたいか、どういう暮らしがしたいかを明らかにするため、「箱庭」にヒントを得て、「理想の終の棲家」を作ってもらいました。実際には箱庭のようなジオラマは用意できなかったので、周囲の環境(都市、郊外など)、間取り、台所やお風呂、家具や寝具、さらには家族・ペット・観葉植物などのシールを用意して、台紙の上に貼っていきます。シールを選定するのを拝見しながらそれを選んだ理由を尋ねました。

 「住み替えるときは旦那と一緒じゃなくてひとりよ。だからこぢんまりした部屋がいいわ」「友達を家に招きたいからワンルームは嫌」「広い部屋で間仕切りはないほうがいい」などいろいろな意見が飛び交います。隣の参加者が台紙に貼っていく間取りや家具などを見ることができるので、他の参加者の意見も耳に入ってきます。あるいは、サービス付き高齢者住宅は食事の提供がある場合も多いですが、「今までさんざん料理してきたからもう作りたくない」という声もあれば「人に頼みたくない」「決められた時間に食事をしなくてはならない、というのが嫌」という人もいます。話題は、住まいに付随して提供される食事サービスの域にとどまらず「もともと遅めの朝食と、夕食の2食しか食べない」「健康のために具が10種類入ったお味噌汁を作る」など、食生活や栄養の場面も垣間見ることができました。日頃あまり話題に上らないことを提示し、会話だけでなく、手も動かして、視覚にも訴えかけたことで、プラザで2年以上働いているスタッフの方も初めて聞いたというような話がたくさん出てきました。

 また、発言は同じでも、具体的な希望、こだわりのポイントは人によって異なります。例えば、住み替える場合に重視する点として、「便利」「安全」「快適」というキーワードが出てきました。「便利」は、具体的には、駅から近い、近所で買い物できる、といった要素であり、これは多くの人に共通していました。一方「安全」について、「どういう場合に安全だと感じるか」は人それぞれの考え方が異なり、「病院が近い」「子どもの近くに住んだらいざというときに安心」「今の家は地震で倒れそうだから耐震構造がしっかりしていること」などを挙げる人もいました。

 最後に、リビングラボで印象的だったご夫婦についてご紹介します。住み替えに対してとても積極的で、特に奥様はお友達と一緒に数多くのサービス付高齢者住宅や有料老人ホームなどの見学をされています。「子どもはいないので、元気なうちに自分たちで片付けなきゃと思っているのです」とご夫婦ともおっしゃっていました。しかし言葉とは裏腹になかなか片付けは進まず、「車庫の奥が荷物だらけ。使っていないビデオデッキやビデオやラジカセなどがいくつもあるが捨てられない」とのこと。さらには、ご自宅のトイレやお風呂のバリアフリーのリフォーム工事もされており、「今の住まいに長く住み続ける」ことと「住み替え」の間で気持ちが揺れ動いていることがうかがわれました。

 「住まい方・暮らし方」をテーマとした「Shift↑リビングラボ(仮称)」では、参加者同士の情報交換も行われていました。「できるだけ住み替えたくない」と考えている人が参加者の4分の3と、多数を占めたものの、住み替えについて考えるきっかけを与えられると、参加者同士の会話や質問も活発に発せられます。息子に呼び寄せられて最近サービス付高齢者住宅に転居したという参加者や、上で紹介した研究熱心なご夫婦は他の参加者から質問攻めに遭っていました。自分の手を動かして理想の住まいのパーツを組み立てていくうちに、自分が住まいに求めるもの、こだわることに気付いたり、シニア同士の情報交換を通じて刺激を受けたりして、考えるきっかけになったように感じました。

 これからも「Shift↑リビングラボ(仮称)」を通じて、参加したシニアに楽しんでいただきながら「自分を再発見する」機会を提供していきたいと考えています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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