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卸売市場法改正で変わる卸売
~流通のデジタル化でニーズに即応~

2018年10月01日 石田健太


卸売が小売と直接つながる法律改正
 6月15日、卸売市場法を改正する法律が国会で成立し、22日に公布された。14年ぶりの改正となった同法の生鮮流通における大きな改正点は、第三者販売の原則禁止が事実上撤廃されることである。
 これまで卸売は、仲卸や買参権を持つ事業者以外への販売を原則的に禁止されていた。この規制は、商物を一致させることで市場流通における価格形成の信頼性を担保するために行われてきたが、流通インフラの整備や鮮度の高い商品へのニーズの高まりから、卸売市場流通内におけるタッチポイントを省略できる今回の撤廃が決まった。今後は、卸売が直接小売とつながり、さらに自ら消費者に対して販売を行うことが可能となる。
 本稿では、本法の改正がもたらす卸売市場流通の変化を予想したうえで、卸売に求められる打ち手の仮説を提言したい。

仲卸も卸売の競合に
 市場流通において、卸売は生産者など出荷者から送られる商品の集荷を、仲卸は小売・外食など川下の流通事業者に対する分配を、それぞれ主要な役割としている。
 卸売へのニーズは集荷機能が中心であり、これまで特段大きな変化はなかった。仲卸(流通チェーン)が求める価格と量の提供が市場での評価であるため、川上の生産者やJAなど出荷者との関係強化に力を入れることが重要とされた。小売のニーズを汲み取ることには消極的であっても、問題とはならなかった。
 一方、仲卸は、取引方法の主流がせり取引からまとまった数量を扱う巨大流通チェーンとの相対取引に移るという大きな変化にさらされた経験を持つ。そのなかで個々の仲卸は、分配の機能を縮小させながら特定の小売とのつながりを強化させ、流通加工やセンターへの配送など、リテールサポート機能の拡充を図るようになった。
 本法の改正によって、仲卸についても産地と直接つながること(直荷引きと言われる)が解禁となった。仲卸が産地からリテールサポート機能を駆使して流通チェーンに卸すことも可能となる。
 つまり、卸売にとっては、仲卸も競合相手に加わることになる。そこで、直接の取引相手となり得る小売に対するサポート機能を拡充することが、競争力を高めるために欠かせなくなってきた。しかし、市場関係者に話を聞くと、卸売側は小売にどのようなニーズがあるのかを汲み取れておらず、なかなか具体的なアクションには結び付いていない。

小売を知り、川上への強みを活かしたデジタル活用を
 卸売は小売が欲するリテールサポートを深く研究する必要がある。現在小売が注力する課題は2つあり、物流やプロセスセンターに代表される「既存機能強化」とビッグデータやオートメーション設備導入などの「デジタルテクノロジー活用」である。卸売では中間加工や小売の配送拠点への配送代行など前者への対策は進めているが、後者への取り組みは立ち遅れているというのが実情である。
 今後、卸売がリテールサポート機能を強化するには、デジタルテクノロジーの活用が必須となる。デジタルテクノロジーの発展で、最終消費者個人の購買データだけでなく、リアルタイムのニーズや興味関心など、あらゆるデータが収集可能となった。小売がそれらのデジタルデータを駆使したマーケティングに取り組むなか、食品専門卸大手の日本アクセスは、博報堂プロダクツと共同でデジタルマーケティングを強化し始めた。博報堂プロダクツは小売から個人の購買データを収集・分析して各個人の関心が高いコンテンツを配信、日本アクセスはそのコンテンツと連動したキャンペーンが組めるようサプライヤーと交渉するスキームである。
 また、川下のサポートだけでなく、川上の生産側に近いという本来の強みを活かすことが非常に重要となる。例えば、トレーサビリティの確保や収穫情報の連携などの施策は、卸売が中心となって取り組めるはずである。
 卸売は市場流通のなかで新たな価値を創出し、独自の地位を築くことを目指すべきである。それにはデジタルテクノロジーを活用して各ステークホルダーの課題を解決し、流通ニーズに即応できる体制の構築を急ぐ必要がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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