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CSRを巡る動き:ブロックチェーン技術を用いた食品サプライチェーン強化の動き

2019年01月04日 ESGリサーチセンター


 ブロックチェーン技術をサプライチェーン管理に適用する動きが広がっています。2018年9月、米小売大手企業のウォルマート社は、ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーン管理システム「IBM Food Trust」を、同社に葉物野菜を納入する企業に対して採用することを義務化しました。同システムを通じて、末端のサプライヤーに至るまで食品のトレーサビリティを強化することが狙いです。ウォルマート社はもともとIBM社と共にブロックチェーン技術を用いたサプライチェーン管理システムの研究開発を進めていましたが、今年、米国内でロメインレタスのO-157病原性大腸菌(O-157)が発生し、数百万個規模でロメインレタスが廃棄処分された事態を踏まえて義務化に踏み切りました。この時200名以上がO-157に感染しましたが、米食品医薬品局や米疾病管理予防センターも、どの生産ロットのロメインレタスがO-157に感染しているかは特定できず課題が残りました。ウォルマート社は食品性の安全性を確保し、消費者への説明責任を明確に果たすためにもブロックチェーン技術が必須との判断に至りました。なお、10月には小売大手企業のカルフール社が導入を決めるなど、グローバル展開している食品関連企業が次々に同システムを採用しています。カルフール社は同社で扱う食品の安全性向上に加えて、プライベートブランド商品(PB)のブランド力強化にも活用する予定です。

 「IBM Food Trust」はブロックチェーン技術により、食品の原産地証明、加工情報、出荷明細を改変不可能にするだけでなく、末端のサプライヤーまで食品をトレースする時間を2.2秒まで短縮できます。これにより、サプライチェーンのトレースコストを大幅に削減することが期待されています。同システムのローンチ前テストには、ウォルマート社以外にドリスコル社、ネスレ社、タイソンフーズ社、ユニリーバ社などの食品加工及び卸企業が参画しました。IBM社は様々な企業と協業して同システムの機能追加・強化を図っており、食品安全性診断や生鮮食品の消費期限予測などの精度の高い情報も同システムから入手可能です。例えば生産者が出荷する時点で、小売企業は鮮度や消費期限を踏まえて最終的に販売する店舗を選択できるため、食品の廃棄ロスの大幅な削減に繋がるだけでなく、消費者のより新鮮な食品購入も可能にします。

 食品関連企業がサプライチェーン管理の強化や精度向上に注力する背景として、植物由来肉(Plant-based meat、PBM)や細胞培養技術を用いた食肉(Clean meat、CM)といった新たな食品技術の台頭にも目を向ける必要があります。世界的な食肉(特に牛肉)の需要超過と健康志向を背景として、大豆や穀物などを原料とするPBMは欧米を中心に小売店での取扱量が増加傾向にあります。主な購買層はアレルギー体質やダイエット目的など健康上の理由を持つ人々であり、原材料や加工プロセスに対する関心が高い人々です。PBMもCMも従来の畜産や養鶏に比べて大幅に少ない資源で製造できるため生産コストが削減できるだけでなく、メタンガスなどの温暖化ガス排出量の削減にも繋がることから、食品大手企業や製薬企業を中心に近年大きな投資が集まっています。PBMやCMの生産・流通量は世界的に増えていくことは確実であり、PBMの原料の原産地、CMの原料となる細胞の採取元、製造・加工プロセスや衛生環境など、正確な情報を即時に消費者や行政、投資家に提示する必要性も高まることは容易に想定されます。従ってPBMやCMなどの新しい食品技術で市場を開拓したい企業にとっては、「IBM Food Trust」のようなサプライチェーン管理システム導入は必然と言えるでしょう。この流れを踏まえると、好むと好まざるとに関わらず、日本の生産者や中小企業にも同様のシステム導入の要請が来る日は近いと考えられます。
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