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社内ベンチャー制度ブーム再来?

2018年10月26日 時吉康範


1.企業からの社内ベンチャー制度のお声掛けが増加

 ここ数カ月で立て続けに「社内ベンチャー制度の導入を検討しており、話を聞きたい」とのお声掛けをいくつか頂戴した。およそ10年前には盛んであって、私自身も多くのコンサルティング案件に参画した『社内ベンチャー制度創設』だが、今年になってお声掛けが増加する真意をはかりかねつつも、当時の資料を再構築し、タスク・支援内容を整理したものが以下図表である。

図表 社内ベンチャー制度のタスクと日本総研の支援


出所:日本総研作成


 なお、筆者はこれまで、制度設計から実行までを一括で請け負った案件もあれば、評価だけ、あるいは、育成だけのように部分的に請け負った案件もあった。

2.社内ベンチャー制度の課題

 新規事業のインキュベーション手法としての社内ベンチャー制度には、3つの限界が存在する。
①「公募」による資産発掘手法の限界
・事業テーマそのものを、「個人の意欲と偶然性」に依存せざるを得ない
②「事業育成」という意味付けの限界
・事業領域を、「個人の興味と強み」に依存せざるを得ない
③「個人」の起業家トレーニングの限界
・事業の可能性や経営を、「個人の能力」に依存せざるを得ない
 よって、いくら会社をたくさん設立したところで、結論としては、大企業(年商数千億円)の成長戦略に貢献するような規模にはならない。

 また、会社設立のよくある閾値である「三年単黒,五年累損一掃」では、技術開発系の企業が立ち上げることはほとんどなく、サービス業ばかりになってしまう。
 社長というお山の大将になって、会社の金で、会社の成長戦略に貢献しないこじんまりしたサービス業を、気の置けない仲間と実行できるとは、なんと幸運な身分なのだろう。
 見方を変えれば、「福利厚生」である。ブームの終焉とともに、筆者が社内ベンチャー制度に関わらなくなった理由と言える。

3.最近のお声掛けの特徴
 「人材に覇気がない」「起業家精神が足りない」「発想力に欠ける」といった課題認識から社内ベンチャー制度への関心を持ったという方々がほとんどである。
 そういう方々には、社内ベンチャー制度は「人の人生を変えてしまう」可能性があると言っている。「応募して事業アイデアを提案した、落選しました、現業を続けています」ならば問題はない。その先の「現業を抜けて事業アイデアのブラッシュアッププロセスに入った後に目覚めてしまって現業に戻らず会社を辞めた」、さらにその先の「めでたく社長として企業を設立できたが事業がうまくいかず、現業にも戻れず行方知れず」ということはあり得るのである。「応募した従業員の人生を変え得る社内ベンチャー制度を運営する覚悟と能力をあなた方はお持ちですか?」と問うと、たいていは正面から向き合いきれない。
 また、応募して先の選考に進んだ従業員の出口を明確にしておくことも重要である。新会社の社長にしてくれるのか、新事業部の事業部長にしてくれるのか、そうでなくても、組織を異動くらいはさせてくれるのか?この制度において重要な組織は人事部門である。人事との調整なくしては、人材育成のお題目すら掲げることはできない。
 このような状態では、応募する側に見透かされることは確実である。
 人に関わるリアルな問題を制度設計で解決し、評価・ブラッシュアップを通してやっと企業を設立し、設立後に順調に黒字を上げた。大したものだ。しかしそれでも「福利厚生」だと筆者は言っているのだ。
 「人材に覇気がない」「起業家精神が足りない」「発想力に欠ける」ことへの対策なのであれば「社内ベンチャー制度(あるいは若干マイルドな新規事業育成制度)」という言葉は使わず、「人材育成制度」であると最初からはっきり言ってほしいと思う。大したアイデアが現れず、「目的は人材育成だった」と後から目的を修正することになるのは、マネジメントへの信頼を損ないかねないからである。
以上



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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