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G20大阪サミットに向けた海洋プラスチック対策案

2018年11月27日 渡辺珠子


 2019年6月、G20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)が大阪市で開催される予定だ。日本が議長国となるサミットとしては参加国、参加者数で史上最大規模となる重要な会合の会場は、大阪湾を臨む大阪国際見本市会場(インテックス大阪)である。そしてここで議論される重要なアジェンダの一つが海洋ごみ問題になるだろうということに意義深さを感じずにはいられない。

 海洋ごみ、特に海洋プラスチック問題と呼ばれる、沿岸部や海に流出したプラスチック廃棄物による生態系破壊、人体への健康被害懸念や沿岸部の経済社会への損害に対する問題意識は近年ますます高まっている。今年6月にカナダで開催されたG7シャルルボワサミットでは、海洋プラスチック問題をはじめとする海洋環境保全に対応するため、各国に具体的な対策を促す「健全な海洋及び強靭な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント」が採択された。同サミットにおいては英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ5カ国とEUは「海洋プラスチック憲章」に署名し、国・地域内のプラスチック規制強化の推進の姿勢を明確にした。

 しかし2015年に発行された学術誌サイエンスによれば、人口密度や経済発展度等から推計すると、海洋プラスチックの発生量が最も多い国は東・東南アジアに集中している(※)。欧州を中心とした主要国が自国のプラスチック規制強化をすることは重要ではあるものの、アジア各国での対策推進こそが急務といえる。ところが、そのアジアの一角を占める日本は、「海洋プラスチック憲章」には署名していない。日本は関連する国内法が整備されていないことを理由に、プラスチック廃棄物削減の趣旨に賛同したものの、署名は見送ったのである。

 確かに、日本企業がこれまで廃プラスチックのリユースやリサイクル、適正処理を推進してきたことを考えれば、署名しなかったことをもって日本の取り組みが遅れているとは必ずしも言えない。とはいうものの、対策が急務な地域内の主要国であり、2016年のG7 伊勢志摩サミットでも海洋プラスチックの発生抑止および削減に寄与することを首脳宣言で再確認しているという経緯を考えれば、署名を見送ったのは慎重すぎる対応だったと言わざるを得ないのではないだろうか。現在、日本政府は、途上国の発生抑制等地球規模での実効性のある対策、地球規模のモニタリング・研究ネットワークの構築等を念頭に、国内対策とも連動させつつさらなる国際連携・協力等の対応策をG20大阪サミットまでに取りまとめる予定であると伝えられる。

 海洋プラスチック問題対策として興味深い動きが最近米国で現れている。投資運用会社である米国Circulate Capitalが、海洋プラスチック対策ファンドを2019年前半に組成することを発表したのである。ファンドにはすでに約9,000万米ドルの資金が集まっており、資金の出し手にはコカ・コーラ・カンパニー、ペプシコ、P&G、ダウ、ダノン、ユニリーバ等の企業や慈善団体などが名を連ねている。東南アジアと南アジアの海洋プラスチック問題緩和を狙うインパクト投資ファンドとして、海洋プラスチック対策に関連するリサイクル技術や廃棄物管理を行うスタートアップに投資するという。同時に、出資している企業や政府と連携し、現地のコミュニティが発案した解決アイデアの実現も支援するとしている。

 大阪府は開業率が2016年度は6.7%と、東京の6%を上回り、2年連続で増加しているなど、足下でスタートアップ立ち上げが増えている。行政や大学を含めて起業支援プログラムも多く、最先端技術だけでなく社会課題解決型の事業を検討する起業家も多い。G20大阪サミットを見据えて、Circulate Capitalのような大阪版の海洋プラスチック対策のインパクト投資ファンドを官民連携で立ち上げ、関西のスタートアップの後押しを進めていくとすれば、実に「おもろい」と思う。

 (※)Jenna R. Jambeck, Roland Geyer, Chris Wilcox, Theodore R. Siegler, Miriam Perryman, Anthony Andrady, Ramani Narayan, Kara Lavender Law “Plastic waste inputs from land into the ocean”, Science (2015)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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