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CSRを巡る動き:「海洋プラスチックごみ」への対応、投資家も企業に要請

2018年12月03日 ESGリサーチセンター


 世界最大級の政府系ファンド「ノルウェー政府年金基金」を運用するノルウェー銀行インベストメントマネジメント(NBIM)は、2018年9月、「Ocean Sustainability -expectations towards companies-」という文書を公表しました。「海洋の持続可能性について企業に期待すること」として、海洋の保全に向けた取り組みと経営戦略の統合や、関連情報の開示などを企業に要請しています。その対象は、海洋をビジネスの舞台とする海運業や石油・ガス掘削業者、海洋資源に依存する漁業や養殖業だけにとどまりません。海洋汚染の一因となっている「プラスチックごみ」にも着目し、プラスチック製品を生産する化学メーカーや消費財メーカー、食品メーカーなども対象として、自社やバリューチェーン全体でプラスチックごみ問題の解決に取り組むべきとしています。ノルウェー政府年金基金は、2018年10月時点で日本株を1500銘柄以上保有しており、大株主上位10位以内に入る日本企業も増えています。NBIMの要請は日本企業にも少なからず影響を及ぼすでしょう。

 NBIMの文書では、企業の取締役会に対して、次の4つの側面「1.経営戦略への海洋の持続可能性の観点の統合」、「2.重要な海洋関連リスクの観点のリスクマネジメントへの統合」、「3.海洋の持続可能性に関するマテリアリティおよびKPI・目標の開示」、「4.海洋関連の事項でガバナンスを効かせる際の責任と透明性ある行動(方針やガイドラインの策定等)」を求めています。プラスチックごみに関しても、1の中で、「プラスチックバリューチェーンに関与する企業は、循環経済への移行に向けた戦略を持つべき」と明記されています。また、3の中でも、「食品や飲料メーカーは、使用済みのプラスチック容器の処分に関する解決策を開示すること」を求めているのです。

 また、米国でESG投資を促進するNGO「As You Sow」は、2018年6月、企業に対して海洋プラスチックごみへの対策を求める機関投資家ネットワーク「Plastic Solutions Investor Alliance」を発足しました。25の機関投資家(運用資産総額は1兆米ドル超)が連名で、企業に対してエンゲージメントを行うという声明を出しました。この声明では、プラスチックの約25%が容器として製造されていることから、プラスチック容器に焦点を当てています。プラスチック容器が大量に使い捨てられれば海洋環境の汚染につながり、結果として企業のブランド毀損リスクにつながるとして、プラスチック容器を製造する消費財メーカーに対して、プラスチック容器を極限までリサイクル・再利用・肥化可能なものにすることや、プラスチック容器の年間使用量の開示、削減目標の設定、使い捨てプラスチックの代替品の開発、使用済みプラスチック容器の回収、海洋プラスチックごみ問題解決に向けた技術開発やイノベーションなどを求めています。

 政策としても、深刻化する海洋プラスチックごみ汚染を背景に、EUではEUプラスチック戦略、EU廃棄物改正指令などにより、プラスチックの発生抑制、再使用やリサイクルの促進策が進められています。アフリカやアジア諸国(中国、インド、台湾、スリランカなど)でも包括的な使い捨てプラスチック禁止政策が打ち出されています。日本でも環境省が2018年10月、2030年までに使い捨てプラスチック排出量を25%削減することを明記した「プラスチック資源循環戦略」の素案を中央環境審議会小委員会に提示しました。この中では、プラスチックの発生抑制のための政策として、「レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)」なども挙げられています。この政策が実現すれば、スーパーやコンビニなどの小売業なども少なからず影響を受けるでしょう。

 今後、全世界で海洋プラスチックごみへの規制が強まるにつれ、投資家もさらにこの問題に注目を強めていくでしょう。NBIMの文書では、海洋の持続可能な活用に向けて、規制当局や消費者の意識が高まる動きは、企業にとってリスクと機会の双方の側面をもたらすとしています。一見、海洋の持続可能性とは無関係に見える化学メーカーや消費財メーカー、食品、小売業なども、海洋プラスチックごみ問題について対応方針を検討すべき時が来ているのではないでしょうか。

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