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CSRを巡る動き:高年齢者の活躍の現状と課題

2018年11月01日 ESGリサーチセンター


 この8月、人事院が国家公務員の定年を原則65歳に延ばすよう求める意見を国会と内閣に伝えました。数年前、65歳までの定年延長や65歳以降の雇用継続を行う企業などに対する抜本的な支援・環境整備策のパッケージを、『ニッポン一億総活躍プラン』の一環とする案が持ち上がりましたが、人件費増となることを懸念した経済界の反対で断念した経緯があります。今回は、国家公務員が先鞭をつけることで、民間企業の制度改革の地ならしをしようとするものだとの指摘も聞かれます。
 そもそも現在の制度はどうなっているのでしょうか。2012年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」)が改正され、原則として、雇用の継続を希望する従業員については、65歳まで雇用することが義務付けられました。定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、雇用する従業員の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を実施することが求められています。
 厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」によれば、定年制を定めている企業は全体の95.5%に上ります。そのうち、定年年齢を65歳以上としている企業の割合は17.8%(前年16.1%)であり、企業規模別では、従業員数1,000 人以上が6.7%(同6.7%)、300~999 人が9.4%(同9.1%)、100~299 人が12.5%(同11.6%)、30~99 人が20.5%(同18.5%)です。多くの従業員を雇用する大企業ほど、65歳以上になっても働き続けられる企業は少なく、その傾向は前年と比べて変化していません。加えて、一律定年制を定めている企業のうち、再雇用制度のみを提供している企業の割合が72.2%を占めています。多くの企業では、定年退職をした高年齢者は、定年前とは異なる雇用形態で更新契約を行っているといえます。
 具体的には、定年後の継続雇用で賃金が低下した人は全体の80.3%に上ります(独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」2015年7月による。調査対象は2,352千人)。しかも、仕事内容が変化していない人は50.7%だといいます。
 高年齢者の雇用継続を更に一層拡大させることを、「企業の社会的責任」として位置づけるべきか否かを判断するのは簡単ではありません。「企業の社会的責任」を様々なステークホルダーからの期待への対応と解釈するのであれば、政府からの期待は確実に存在しています。一方、当の高年齢者からは、部下の喪失、賃金低下、閑職への異動が必須とされる現状で一概に期待があるとは言い切れません。年齢ではなく成果に連動した賃金制度を選択できるようにすることが理想ですが、人件費の膨張に眉を顰める投資家も少なくないでしょう。企業の側も若手社員の待遇改善が急務というのが本音のようです。
 ただ、漸進的ながら「社会的責任」の果たし方はいくつかあるでしょう。例えば、高年齢者にこそ、兼業、副業、起業を後押しする社内制度を作るというものです。規模の小さい企業ほど定年年齢を65歳以上としている割合は高く、自ら納得して主体的に新たな職場を選択するという環境を醸成することに繋がります。卑近なところでは、定年を話題とする相談機会を、社員との間で作るということも有効です。前述の同調査では、定年前に働いていた会社で高齢期に定年に向けての相談機会があったと回答した人はわずか約2割に留まっています。ただ、相談の機会を与えられた約9割の従業員は、相談ができたことに満足したと回答しています。その理由は、多くが相談の機会を通じて、定年後の仕事内容などの希望が受け入れられたというものですが、希望が受け入れられなかった人のなかでも、相談機会が得られたこと自体に満足している人もいます。
 日本企業、とりわけ大企業において65歳までの定年延長や65歳以降の雇用継続がひろく現実のものとなるのは、労働人口減少が絶対的な企業の制約条件になるタイミングと同じでしょう。ただし、企業と高齢社員の両方が意識を大変革できれば、取り組みを先行させることが可能なのも事実です。現に、高年齢者の雇用に取り組む日本企業のなかには、人手の確保に留まらず、優秀な高年齢者の維持、スキルやノウハウの発揮などの効果が得られた事例も出てきています。「65歳までの定年延長や65歳以降の雇用継続」を宣言し、CSR推進と企業価値向上とを同時実現していると胸を張る企業が、ひとつでも多く出現してほしいと願います。
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