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健康経営での「女性の健康推進」は職場のリテラシー向上が最初の課題

2018年07月01日 田川絢子


「健康経営」の認知拡大と企業の取り組み
 超少子高齢化社会の企業経営では、労働力確保は特に重要な課題の一つである。そのため、健康な心身づくりや健康的に働けるオフィス環境を整備することで労働損失を低減させる「健康経営」についても、認知・普及への取り組みが国を挙げて推進されるようになった。
 健康経営の推進は、解決したい健康課題と目標をテーマとして設定することから始まる。多くの企業では、生活習慣病と関連の強いメタボリックシンドロームに焦点を当て、歩数計や体組成計を社員に貸与し定期的に体重や体脂肪率をチェックしたり、ウォーキングイベントや特定保健指導を行ったりするなど様々な取り組みを推進している。

「メタボ対策一辺倒」は職場が男性中心だった時代の遺物
 しかし、これらの取り組みは中年男性社員をメインターゲットとしたものと言えるだろう。厚生労働省の国民健康・栄養調査2017年によれば、肥満者(BMI: 25以上)の比率は、女性が20.6%であるのに対し男性は31.3%と高く、特に40~50代男性では35%程度となっている。
 一方で、女性就業率は近年大きく上方にシフトが進んでいる。総務省労働力調査2017年速報によれば、女性は全職員・従業者数の46%を占める労働力である。メタボ一辺倒の従前の対策では、従業員は自分事として受け取ることができず、健康経営推進の障害になりかねないというのが実態といえる。
 女性が抱える健康課題は、男性に比べ肥満以外のものの比率が高いという特徴がある。例えば、女性のやせ(BMI: 18.5以下)の割合は、11.6%であり、この10年間で有意に増加している。また、健康日本21推進フォーラム「疾病・症状が仕事の生産性等に与える影響に関する調査」(2013年)では、男女双方の労働者を対象とする調査にもかかわらず、生産性に影響を及ぼした健康上の問題・不調として月経不順やPMS等による不調が、「メンタルの不調」「心臓の不調」に続く3位という結果となった。

リテラシーの低さが仕事へのモチベーション低下の原因に
 女性が抱える健康課題は妊娠・出産などライフイベントに係る課題などもあるが、企業は業務遂行や労働損失にかかわる健康課題から取り組むべきだと考える。
 バイエル薬品が2011年に実施した調査では、月経随伴症状等による労働損失(会社を休む・労働量/質の低下)は、年間4,916億円に上るとの試算が示された。しかし、従業員・管理職を対象に経済産業省が2017年に実施した調査では、こうした情報を知っていたとする回答者の比率は、全体の5%程度にとどまった。
 業務遂行等に影響を与える健康課題へのリテラシーの低さは、女性が働き続けることや昇進・責任の重い仕事に就くことを若いうちから諦めることにつながり、結果として退職やモチベーションの低下という労働損失として企業に影響を与える。
 職場で何らかのことを諦めた経験を有する女性社員からは、柔軟な勤務体制等両立を支えるサポートだけでなく、部署内でのコミュニケーションや意識啓発を図る「健康教育」を求める声も上がり始めた。管理職側からも、健康課題を抱える女性部下をサポートする際に、産業医や婦人科といった専門家に、管理職自らが相談できる窓口の必要性が指摘されている。
 既にいくつかの企業では、女性の健康推進に積極的に取り組む動きがみられる。例えば、NTTドコモでは、5年目の女性職員とその上司を対象に自身のココロとカラダに向き合いキャリアプランを考えるセミナーを実施している。本人だけでなく、上司に対しても女性の健康上の課題についての認知を高めることで、共通の課題認識を持ちながらキャリア形成を考え働きやすい環境づくりに取り組んでいる。

女性自身の健康リテラシー向上は多面的な波及にも期待
 女性の健康課題は、労働損失につながるなど社会的な課題への影響が大きいにもかかわらず、その事実がほとんど知られていない。まずは、女性自身・管理職への情報提供やセミナーの実施等を通じて、リテラシーの向上から始めることが重要といえる。また女性自身のリテラシー向上は、子どもや家族といった本人以外への波及効果も見込まれ、健康推進のキーマンとしての役割も期待できるのではないか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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