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CSRを巡る動き:森林破壊に関与する企業への投資家からの目線

2018年10月02日 ESGサーチセンター


 CDPといえば、87兆ドル相当の資産を有する投資家からの賛同のもとに、上場企業に環境情報開示を求めるNGOとして、多くの日本の経営者に名を知られる存在といっても過言ではないでしょう。その対象領域は、当初は気候変動のみでしたが、水、森林に広がっています。また、投資家に加え、合計売上高3兆ドルを超える大手小売業等も、今日、CDPに賛同しています。
 森林に関する情報開示を後押しする投資家は、2017年時点で380機関。運用資産額で見ても29兆ドルと、気候変動と比べて、まだ3分の1弱の規模に留まっています。とりわけ、森林に関する情報開示を求める日本の投資家は3機関のみ。上場企業の側の森林に関する情報開示の格付でも、最高位の「Aリスト」に入った企業は全世界で6社あるものの、日本からはゼロでした(注1)。
 温室効果ガス排出量の15%は、温室効果ガスの吸収源である森林が減少することに起因しているといわれています。しかし、日本国内では、エネルギー転換問題やSDGs(持続可能な開発目標)と比較して、環境問題としての森林減少の認知度はまだまだ限定的だといえるでしょう。
 ちなみに、森林減少の原因のひとつに山火事があります。山火事は、企業活動や住民生活にも非常に大きな影響を及ぼすものです。2018年夏に北半球では高温現象が広範囲に発生しました。米国カリフォルニア州の山火事は、これまで最大の規模に拡大しました。欧州でもポルトガルで広範囲な山火事が発生し、非常事態宣言まで出されました。高温・熱波は地球温暖化が原因とする見方が強まり、ポルトガルでは山火事の被災者により、温室効果ガス削減強化を国に求める訴訟が準備されているともいいます。観光業等に与える中長期的なインパクトも無視できません。森林減少が温暖化を進行させ、高温・熱波から山火事が起きて、さらに森林減少が拡大するという悪循環が現実のものとなっているのです。
 このところ、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資家と企業による対話への注目が高まっていますが、日本ではテーマとして「森林破壊」が上がることは稀です。しかし世界に目を転じると、様子は異なるようです。例えば、2017年、責任投資原則(PRI)はNGOと共同で、熱帯雨林の破壊を止めることを目的に「持続可能な森林のための投資家イニシアティブ」を開始しました。6.3兆ドルの資産を運用する32の投資家がワーキンググループに参加しています。さらに2018年7月には、南米で大豆生産のため森林を破壊する企業に対して、市場リスクや評判リスクの観点からのエンゲージメント活動を拡大させています(注2)。
 大豆生産は過去20年で、世界全体では2倍に増加しました。米国と並ぶ主要生産国であるブラジルでは特に、森林破壊の主因となっていると指摘されています。日本の大豆輸入は米国からが最も多く、2015年時点でブラジルは米国の約4分の1の規模で、第2位に留まりますが、それでも51万トンを輸入しており(注3)、日本企業がこうした森林破壊と無関係だとは決して言い切れません。
サプライチェーンなどの範囲まで含めて、森林破壊と企業との様々な関係が明らかになってくれば、“森林破壊”をキーワードとした投資家と企業の対話が、日本国内でも徐々に広がってくる可能性があるでしょう。



(注1) CDP Global Forest Report 2017

(注2) PRI 2018年7月9日発表のプレスリリース
     PRI and Ceres expand Sustainable Forest Initiative to include dialogue with companies in soy value chain

(注3) 農林水産省資料

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