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停電が突きつける現実

2018年09月11日 瀧口信一郎


災害の続く日本
 2018年9月5日の関西、9月7日の北海道と立て続けに停電が起こった。早期の完全復旧と被害を受けた方々の生活が一日も早く取り戻されることを切に願う。
 今回の一連の停電は、日本のエネルギーシステムが自然災害のリスクにさらされていることを改めて認識させた。地震は断続的に日本列島を襲い、地球温暖化が進めば気候変動で台風などの災害が起こる。
 関西では観測史上最大の瞬間風速を記録した台風21号により電柱の倒壊は避けられなかった。北海道では泊原子力発電所が再稼働していたら大停電は回避できたとの声もある。その通りだと思う。

投資を躊躇する電力会社
 しかしながら、今回突き付けられた問いは、災害が多発する一方、人口減少で投資が難しく、電気料金を抑える競争も必要で、地球温暖化対策も求められるなか、電力システムをどのように維持し、次世代の電力システムにつないでいくかということである。
 北海道経済の停滞で北海道の電力消費量は伸び悩んでおり(図表)、広大な面積を持ちながら設備投資が難しい状況にある。天然ガス火力導入は長らくの懸案だったが、東日本大震災を機にようやく具体的に動き出した状況である
(注1)。

図表 北海道と関西の電力消費量(送電端電力量)
図表1

出所:電気事業連合会「電気事業60年の統計」、資源エネルギー庁「電力調査統計」、関西電力「数字で見る関西電力」より作成

不透明さを増す電力システム
 電力システムは、1960年代前後の高度経済成長期に日本の津々浦々に行き渡り、日本の産業と生活を支えてきた。その後も電力の需要は伸び続け、人口増加、産業発展で投資回収は問題なく実現できた。北海道にも室蘭、苫小牧など工業地帯が広がり、発電所投資や送電網整備が進んだ。
 かつて頻発した停電は、電力会社による送配電網の強化によって激減し、東日本大震災前には大規模停電が根絶した印象すらあった。
 現在、災害リスクが過去の想定を上回るなか、人口減少、経済低成長の時代に入り、電力システムには成長を前提にした、潤沢な資金投入が難しくなっている。再生可能エネルギーの導入拡大の中で、既存火力発電や原子力発電の強化の意思決定も難しい。電力会社がリスクを引き受ける余力は限られている。

投資リスクの分散
 必要なことは、電力会社に投資負担を押し付けず、利益を享受する主体を巻き込み、電力システムへの投資リスクを分散させることである。可能性として2つのアプローチが考えられる。
 1つ目は再生可能エネルギーなどの発電事業者や新電力による負担である。北海道北部は設備利用率が30%を超え、単独の発電コストが欧州並みのキロワット時あたり10円以下を目指せる風力発電の適地であり、新規に建設される天然ガス火力と併せれば、リスクを大幅に分散化できる。そのためには風力発電所から送配電網への接続線や、本州との連携で電力を融通して北海道内の電力を安定させるための北海道本州(北本)連系線の増強が必要である。
 その場合、群馬県で行われた太陽光発電の接続入札のように複数の再生可能エネルギー事業者が共同負担したり、東北東京間連系線整備で用いられた発電事業者が電力会社の負担を一部肩代わりしたりするスキームの適用が考えられる。電力関係者に限らず幅広い資金提供者を募ることもあってよい。その場合、リスク範囲が無限になれば誰も投資しないため、国主導でリスクを限定し、電力広域的運営推進機関(広域機関)によるガバナンスの下、民間資金を引き入れることになろう(注2)。
 2つ目は発電を小型分散化し、需要家やその支援者による負担で整備することである。需要サイドの配電網に太陽光発電やコジェネレーションを導入し、エネルギーマネジメントを行う仕組みは、投資額が小さいため、リスクを取る主体の幅を広げることができる(注3)。需要家の工場やオフィスビル、住宅やその下支えをする不動産会社や自治体による負担が考えられる。北海道は梅雨がなく、台風も少ないので、太陽光の活用がしやすい。風力発電の設置場所の多くない関西ではこの方式が重要性を増す。
 日本総研の試算(注4)では、人口減少で日本全体が同じ状況を迎え、2050年には電力需要が20%以上減少する可能性もある。需要減少リスクで縮こまる電力関係者が増えると想定されるなか、災害に強い次世代の電力システムの構築に向けて、多様な主体からの協力を取り付けるアプローチが求められる。

(注1)北海道電力プレスリリース「石狩湾新港発電所の建設計画について」2011年10月11日

(注2)瀧口信一郎「広域機関の設立を機に新たな民間送電投資を」『JRIレビュー』2014年3月19日

(注3)瀧口信一郎「パリ協定で南下する世界の再生可能エネルギー」『JRIレビュー』2018年6月21日

(注4)藤山光雄「2050 年の電力消費は 2016 年対比 2 割減少」『日本総研Research Focus』2018年5月14日


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません

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