コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

限定機能小型EV(SEV)という製品領域

2018年08月28日 程塚正史


 中国では独特のEV製品領域が形成されつつある。日本メーカー製のEVといえば、日産自動車の「リーフ」か三菱自動車の「i-MiEV」が思い浮かぶ程度で、絶対台数が少ないことから、EVのなかでの製品カテゴリと呼べるものは今のところ存在しない。一方、世界最大のEV大国の中国では、EVでも多くの車種が市場に出回っている。それらの製品をマッピングすると、特徴的な一群が浮かび上がる。

 中国での新エネルギー車(EV、PHEV)の販売台数は2017年で77.7万台と、世界全体の過半を占める。2018年上半期も40.7万台に達し、年末12月の販売量が増加する中国の市場慣行を考慮すると、通年での販売台数は100万台を突破すると見込まれる。現在までに販売されているEVの車種ブランドも、中小を含めると50を超える数となっている。

 2017年の販売台数の上位15車種を、電池のみでの航続距離と車長で位置を定め、販売台数を円の大きさで表すバブルチャートを作成すると、下図のようになる。
図表1

(出所:筆者作成)

 このチャートから、いくつかのEV製品領域が浮かび上がる。①4,500mm×350km前後、②3,500mm×175km前後、③2750mm×150km前後の3つだ。車両サイズとしては、領域①はDセグメント、領域②はAセグメント、領域③はA00セグメントとなる。

 一般的に、車長が長いほど搭載する電池を大型化できるため航続距離も長くなる。そのため、領域①と領域②はごく「自然」な状況といえる。現時点では①と②の間に空白の領域が生じているが、自動車の製品企画プロセスを考慮すると、今後、空白を埋める製品の登場が想定される。

 「自然」ではないのが、領域③である。領域②よりも車両サイズが小さいにもかかわらず、同等の電池を装備している。この背景には、2つの理由があると思われる。1つ目は、何よりも補助金政策の影響だ。航続距離150km未満のEVには2017年から補助金が支給されなくなったため、車両サイズが小さくても大きめの電池を載せたというわけだ。

 ただし、この領域の製品が存在するのは、必ずしも制度によって規定されているだけではないと考えられる。2つ目の理由として、ここに市場ニーズがあるのではないかと思われる。言い換えると、このサイズの車両が、中国の自家用車ニーズに応えるものになっているのではないかということである。

 中国では、現時点でも自家用車保有率は6~8世帯に1世帯程度と推定される。そのため自家用車を初めて購入するという層もまだまだ多く(50%弱と推定される)、一台目から大型で高価な車両を買うよりは、まずは小型で安価なほうがいいというニーズが存在する。日本含め先進国の人々はEVにガソリン車の代替としての役割を求めるのが通常だが、初めて自家用車を購入する場合は、従来使っていた電動バイクの代替と捉える傾向もある。

 また、中国の都市構造として、都市部が特定地域に密集しているということも背景にある。日本のように街区が緩慢に広がるのではなく、都市部とその周辺(草原など)は明確に区別される。そのため都市内での移動は限定的な距離となり、大都市でもせいぜい往復30~40kmと推定される。とはいえ電池容量がギリギリでは不安感を催すので、カタログ値で150km(実質的には100km程度か)が落としどころとなる。

 2013年に中国でEVが爆発的な普及を始めて以来、領域③の車両は存在し続けてきた。代表例は、知豆ブランドのD1/D2だ。ただし外観・内装ともにデザイン性に優れているとはいえないというのが業界での評価だった。しかし今年、大手の一角である北京汽車系の北汽新能源が「LITE」という車種の販売を開始した。これは、主に20~40代の女性から支持を集めるかわいらしい外観を持つ領域③の車両である。

 今後も、領域③の製品は生き残り続けるのではないだろうか。この領域は、多くの機能を持たない、ひたすら都市内の短距離移動に特化した車両である。これまで先進国市場には存在しない中国発の製品領域となる。日本で軽自動車という独特の製品群が支持を集めたように、中国でも限定機能の小型EV(SEV, Small EV)という領域が生まれつつあると見て取ることができよう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ