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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第6回)~ラストマイルモビリティとMaaS(2)~

2018年08月14日 井上岳一


(相次ぐ鉄道会社のMaaSへの参入表明)
 小田急電鉄は、今年4月に発表した中期経営計画の中で、「自動運転技術等の次世代のテクノロジーを活かし、多様な交通モードのシームレスな連携による移動サービスを享受できる生活の実現(MaaS: Mobility as a Service)を目指してまいります」と謳った。鉄道会社が中計でMaaSに言及したのは国内では初めてのことだ。

 MaaSに対する取り組みで先行していたのはJR東日本である。2016年11月に発表した「技術革新中長期ビジョン」では、Door to Doorのモビリティサービスの実現を通じて、お客さまにとっての「“Now (今だけ)、Here(ここだけ)、Me(私だけ)”の価値の提供」を目指すとしていたが、先月3日に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」では、スマホアプリ上でシームレスに検索・手配・決済ができる「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を構築していくことを発表した。いよいよ本格的にMaaSの導入に取り組む構えである。

 MaaSは自動車業界の取り組みだと思っていた読者には、なぜ鉄道会社が?と不思議に思うかもしれないが、路線検索をすると、多くの結果は鉄道から表示されるように、鉄道とMaaSとは切っても切れない関係にある。MaaSで先行する欧州の場合、既に鉄道会社は、MaaSオペレーターとして重要な地歩を築いている。その最前線を突き進んでいるのはドイツ鉄道(DB)である。

(ドイツ鉄道のMaaSの取り組み)
 DBは、早くも2013年には、マルチモーダル型の統合モビリティサービスプラットフォームQixxitを実用化させている。Qixxitでは、検索のみならず、予約・決済もできる。当初はドイツ国内に限られていたが、現在では、飛行機や長距離バス含め、国境をまたぐ長距離移動時のトラベルプランナーとしての使い勝手の良さを売りにするようになっている。
 並行して、鉄道以外のモビリティサービスにも手を広げてきた。レンタカーやバスは日本の鉄道会社も手がけるが、DBは、カーシェアリング、自転車シェアリング、乗合タクシーも展開している。他に、内外の様々なモビリティベンチャーへの投資も積極化している。

 2017年には、自動運転やAI時代に対応した新しいモビリティサービスiokiの取り組みを始めた。iokiは、analytics, autonomous, on-demandをコアとするプロジェクトで、2018年中に、企業化される計画だ。Analyticsは、AIを用いたビッグデータ解析、autonomousは自動運転、そして、on-demandは、文字通りオンデマンドを意味している。
 この三つを組み合わせたモビリティサービスとして、iokiが事業化に向けて実証実験を繰り返しているのがDRT (Demand Response Transportation)である。DRTは、on-demand & door-to-doorの乗合型サービスで、現時点では運転手が運転するが、ゆくゆくは自動運転に切り替えてゆく計画だ。

(MaaSは、ラスト&ファーストマイルに帰着する?)
 DBは、DRTに既存の公共交通を補完する役割を与えている。駅から最終目的地までのラストマイルの移動手段としてDRTを導入して鉄道の利便性を向上させると共に、夜間や農村地帯など、鉄道が手薄な時間・場所にはDRTを配置して、マイカーからのシフトを促す。その結果として、鉄道の利用客を増やし、マイカー利用者を取り込んで、モビリティを向上させつつ、都市環境を改善する。それがiokiを通じてDBが実現しようとしている姿だ。

 早くからMaaSに取り組んできたDBは、その集大成としてDRTを展開し、ファーストマイルからラストマイルまでの全てをおさえにかかっている。結局、サービスとしてのモビリティを突き詰めていくと、ラスト&ファーストマイルを誰がおさえるかというところが勝負の鍵を握るのかもしれない。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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