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【キャリア形成の未来】コミュニティ・ドリブンになるこれからのキャリア

2018年06月29日 市岡敦子


 本稿では、コミュニティの動向や変化を踏まえ、「これからのキャリアはコミュニティ・ドリブンになる」という未来の仮説を提示したい。なお、コミュニティという単語は多用な意味で使われるが、本稿では「対話的な絆を通じて組織されているもの/参加は自発的で、実践によって創造されている人のつながり」と定義する。

働き方は、固定的なものから流動的なものへ
 「人生100年時代」というキーワードが注目されて久しい。多くの人が100年以上生きる時代が訪れると、老後資金確保の観点から、より長い期間働く必要が生じる。そこで、従来は「教育⇒勤労⇒引退」の3ステージで構成されていた人生のステージを増やし(マルチステージ化)、自身の経験やキャリアを複線化・多層化させる、新しい働き方を選択する人が増えると予測されるようにもなっている(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット、「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略」、東洋経済新聞社、2016年)。従来型の働き方、生涯を通して一つの企業や職業に属し続ける働き方では、自身が働く際の立場や役割は長期的で固定的であった。しかし、同書による新しい働き方では、自身のキャリアを自分でデザインし、複数の企業あるいは職種、就業形態を渡り歩くことになる。
 また、ステージの移行を繰り返しつつも若々しく働き続けるために身に着けなければならないもの(変身資産)の一つとして、「多様性に富んだ(人的)ネットワーク」の重要性が説かれている。新たな視点を獲得し、ステージ移行を後押しするロールモデルと出会うために、比較的大きな人の集団とのつながりが必要だというのだ。しかし、そのような人的ネットワークとは、一体どのように構築すればよいのだろうか?
 筆者は、コミュニティがその解決策になるのではないかと考える。最近コミュニティに起こっている変化を見ると、コミュニティで活動することが多くの人にとって当たり前になり、コミュニティが多くの人のキャリア形成に活用されている未来が見えてくる。

コミュニティの創出・参加が容易になる世界へ
 近年、コミュニティを生み出し、成長させるプラットフォームの充実が目を引く。例えばFacebook社は、今後10年間における同社の新しいミッション「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する(To give people the power to build community and bring the world closer together)」を2017年に発表。コミュニティ運営に活用される「Facebookグループ」の機能を拡充させている(*1)。また、UberやAirbnbと並ぶユニコーン企業と言われ、世界中でコワーキングスペースを運営しているWeWork社は、コミュニティ・プラットフォーム事業を手がけるMeetup社を買収。自社のコワーキングスペースを利用したコミュニティ形成に力を入れている(*2)。他にも、交流型シェアハウスやオープンイノベーションスペースの登場など、コミュニティを生みだすための場の提供も盛んだ。
 一方、コミュニティの数が増えていくと、どのコミュニティへ帰属すべきか、迷いが生じる人が新たに生まれることが想定し得る。そこで、最近の新しい動きとして着目したいのは、コミュニティの「評価」を行うプラットフォームサービスの登場だ。例えば、Piazza社は、地域コミュニティを対象に、住民間での「つながりの数」「活動(参加・貢献)の量」から、その時点の街のコミュニティを数値化する指標「Community Value」を開発、2018年3月から公表している(*3)
 また、Asobica社は、コミュニティの価値を売買できる新サービス「fever」を同年4月にリリースした(*4)。fever内の取引所に上場したコミュニティは、コミュニティ独自の通貨を発行することができ、ユーザーはコミュニティの通貨を購入して好きなコミュニティを応援できる。取引所の需給関係に応じて独自通貨の価値は株価のように変動、つまりコミュニティの価値も変動する、というものだ。独自通貨を売却することも可能だ。
 コミュニティを作り育てるプラットフォームと、コミュニティの内外から評価するプラットフォーム。2つのプラットフォームの成立により、コミュニティを創出・運営すること、コミュニティに参加することがますます容易になってくるだろう。

コミュニティの変化が、働き方の流動性を促進する
 このようなコミュニティの変化は、新しい働き方の促進にもつながる。新しい働き方では、仕事上の人的つながりはステージを更新するごとにすべて自助努力で構築しなければならない。しかし上記のような個人のコミュニティへの参入を促す仕組みがあれば、気軽にコミュニティを創出・参加して人とのつながりを構築することができる。キャリア観の似た人同士が集まるコミュニティを選べば、信頼できる仕事仲間や顧客を見つけることも容易だろう。就業の場が相対的に流動的になることから、自分の意思で創出・参加できるコミュニティにより強い帰属意識を感じる人も出てくると想定される。コミュニティが多くの人のキャリアを形成する物理的・精神的な中心の場として活用されていくのだ。コミュニティ内で起業する人も増えるかもしれない。
 既存のコミュニティで近いものとしては、著名人による一般人を対象としたサロンの開催が挙げられる(*5)。これらは、著名人の提示するビジョンに共鳴する参加者同士をコミュニティ化して、そのつながりから生まれたアイディアを活用して参加者同士で新たなビジネスを創出することを意図している。
 「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略」で描かれているマルチステージ化した働き方は、専門性・技能が格別に高い特別なビジネスマンしか実行できないように見える。しかしコミュニティという共助の仕組みが支えとしてあれば、流動的な働き方が本格的にメインストリームになる日も近いのかもしれない。だとすると、未来の個人は、「どのようなコミュニティに参画すれば、より自分らしく働いていけるのか」という問いと、常に向かい続けなければならないのかもしれない。

(*1)Facebook newsroom Webサイト、“Facebookの新ミッションは「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」-「コミュニティサミット」を初開催、グループ管理者のための新機能も発表-(2017年6月26日)”、https://ja.newsroom.fb.com/news/2017/06/our-first-communities-summit-and-new-tools-for-group-admins/,2018年6月20日閲覧
(*2)Wired Webサイト、“WeWorkは「オフラインのコミュニティ」の構築を加速する──ある企業の買収で目指す「次のステップ」(2018年1月26日)”、https://wired.jp/2018/01/26/wework-and-meetup/,2018年6月20日閲覧
(*3)Pizza Webサイト、 ”町のコミュニティを数値化する”、https://www.lp.piazza-life.com/cv、2018年6月20日閲覧
(*4)Fever Webサイト、https://fe-ver.jp/、2018年6月20日閲覧
(*5)堀江貴文氏による「堀江貴文イノベーション大学校」、佐渡島庸平氏による「コルクラボ」、箕輪厚介氏による「箕輪編集室」など。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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