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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第5回)~ラストマイルモビリティとMaaS(1)~

2018年06月26日 井上岳一


 今年1月、米国ネバダ州ラスベガスで開催された新製品や最新テクノロジーを披露する世界最大規模の見本市2018 International CESで、トヨタ自動車はMaaS専用の自動運転車両のコンセプトカー「e-Palette」を発表した。
 MaaS(マース)とはMobility as a Serviceの略称だ。e-Paletteは、スマホのように、アプリ次第でいろいろなサービスに使える柔軟性と拡張性を兼ね備えたクルマである。スマホのようなクルマを用意することで、モビリティサービスの可能性を追求し、それらを包含できるプラットフォームになることを目指す。それがトヨタのMaaS戦略だと宣言することに、e-Palette発表の戦略的意味合いがあったのだと思う。
 コンセプト動画を見る限り、e-Paletteは町中での低速利用が中心になるようだ。その意味で、e-Paletteは、国が2020年までの実用化を目指すラストマイル自動走行に対する一つの提案にもなっている。
 ラストマイル自動走行の可能性を広げるe-Paletteのコンセプトは、「さすがはトヨタ」と思わせるものだ。だがあえていうなら、クルマを使ったサービスの追求がMaaSだと言わんばかりの物言いには、やや違和感が残る。MaaSの本質は、公共交通とカーシェア、ライドシェア、さらにはバイクシェア(自転車シェア)等の異なる交通手段を組み合わせることで移動の効率を高め、マイカーの利用を減らそうとする点にあるからだ。少なくともそれが、欧州発祥のMaaSがこれまで目標としてきたものである。

 MaaSという言葉が公式に使われるようになったのは、2014年のことだ。ヘルシンキで開催されたITS Europe Congressで、当時ITS FinlandのCEOだったSampo Hietanen氏がMaaSの概念を発表したのが始まりである。翌2015年には、ITS EuropeがMaaS Allianceを設立。2016年にはHietanen氏がMaaS Globalを設立し、ヘルシンキ市内の交通手段をつなぐWhimという名のMaaSサービスを開始した。これが話題となり、2017年には、トヨタファイナンシャルサービス、あいおいニッセイ同和損保、デンソーが相次いでMaaS Globalに出資。以来、日本でも自動車業界関係者の間では、MaaSという言葉がそこここで囁かれるようになっていた。そういう素地があったところにe-Paletteの発表があり、MaaSが一気に耳目を集めるようになったのである。

 MaaS GlobalのWhimは、マルチモーダル型の統合モビリティサービスである。市内で使える交通手段の組み合わせの中から目的地までの最適ルートを検索できて、予約や決済もできるワンストップサービスだ。単なる交通情報の提供にとどまらない点が、ナビタイムやGoogleマップ等の経路検索サービスとの違いである。 
 もっとも、この手のサービスはWhimが最初というわけではない。嚆矢となったのは、2011年に米国でリリースされたアプリRideScoutである。その後、2012年には独ダイムラーのMoovel、2013年にはドイツ鉄道のQixxit、2014年にはウィーン市のSMILEという具合に、欧州を中心に、マルチモーダル型の統合モビリティサービスが、続々と立ち上がっている(ただし、SMILEは実証のみ)。
 その中では後発組と言っていいWhimの特徴は、定額制・乗り放題のサブスクリプションモデルを採用していることだ。例えば、月499ユーロを払えば、一回5kmまでのタクシーも含めてヘルシンキ市内の交通機関が乗り放題となる。公共交通とデマンド交通(タクシーやカーシェア等)をパッケージにして、定額制で利用できるようにしたところに、Whimの革新がある。

 Whimのような統合型モビリティサービスが目指しているのは、既存のモビリティサービスの組み合わせによってモビリティを向上させるというもの。一方、トヨタのe-Paletteが目指すのは、クルマを使ったサービスの拡大である。Whimが「モビリティサービス」の「モビリティ」に力点があるとしたら、e-Paletteは「サービス」に力点があると言い換えても良いだろう。同じMaaSという言葉を使っても、どこに力点を置くかによってこれだけ異なるものになり得るのだということは興味深い。

 次回、ラストマイルから見たMaaSの可能性について考えてみたい。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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