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【次世代農業】
次世代農業の“芽”第9回 酪農IoT, AI, ロボットによるポジティブフィードバックシステムの可能性

2018年06月12日 今泉翔一朗


 近年、酪農業界においてもIoT, AI, ロボットの活用が進み始めている。北海道帯広市に本社を置くファームノート社は、牛にセンサーを取り付け、活動データを取得し、AIで解析、発情や疫病兆候などの異常をスマホ等に通知することで、最適な飼養管理を実現している。また、欧州で開発された、重労働である搾乳を支援するロボットは、日本においても大規模酪農家を中心に少しずつ導入されつつある。さらに、IoTとロボットを組み合わせ、個々の牛の飼養から搾乳までの作業で得られるデータを解析し、乳用牛の健全性・生産性の向上や適時適切な飼養管理等の実現を目指す研究の取り組みも、東京理科大学を始めとするコンソーシアムで進められている。

 こうしたIoT, AI, ロボットの導入は間違いなく酪農の最適管理、生産性の向上を実現するだろう。一方で、IoTビジネスの観点からすると、最適化・生産性向上の取り組みは、第一段階と言える。IoTビジネスには、第二段階がある。それは、IoTやロボットで取得したデータを第三者に共有することで事業を活性化させ、それによって、再び自身の事業が活性化し、データ取得が高度化するという自律的拡大のポジティブフィードバックが起こる段階だ。

 この第二段階に突入した取り組みがある。オランダのSmart Dairy Farming(SDF)だ。SDFは、2010年にオランダ応用科学研究機構(TNO)や大学、乳業メーカーの12のステークホルダーが設立したコンソーシアムであり、ここに7つの酪農家が加わって、酪農IoTの検討が進められている。SDFもデータを取得・解析することで、酪農の最適管理、生産性の向上を実現するが、それだけでなく、データをセンサー・アプリケーション開発会社に共有して新しい製品開発を促したり、乳業メーカーや消費者等に共有して付加価値の高い乳製品を販売したりすることまで視野に入れている。まだ始まったばかりの取り組みだが、成功すれば、SDFの取り組みに共感する酪農家が増え、データ数も増え、ますます最適化・生産性向上モデルの精度が向上し、製品の付加価値が上がり、外部のステークホルダーの参加も増えるといったポジティブフィードバックが起こることが考えられる。

 こうした自律的拡大のポジティブフィードバックが期待できるのは、SDFが以下の3つの特徴を持つデータプラットフォームを構築したためだ。

(1)メーカーの垣根を超えるプラットフォーム
搾乳機、給水機、計量秤等の機器には複数のメーカーが存在する。プラットフォーム利用者を増やすため、全ての機器がプラットフォームで利用できる。

(2)データ分析を容易にする前処理を行うプラットフォーム
給水機や計量秤等の測定値が同じ意味を持つとは限らない。例えば片方はミリリットル単位で、片方はリットル単位かもしれない。これらの差異をデータ解析する際に自動的に変換する。

(3)データを所有しないオープンなプラットフォーム
先日施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)に見られるように、EUではデータの取扱いが非常に厳しい。本プラットフォームにおいては、酪農家のデータをプラットフォームのデータベースに蓄積することなく、酪農家にデータの所有権を持たせたまま、各酪農家から許諾を得たデータのみ使用している。

 日本においても、酪農におけるIoT, AI, ロボット活用を進展するためには、第二段階を検討すべきだ。そのためには、何が必要となるだろうか。恐らく日本においても同じような特徴を持つプラットフォームは技術的には構築できるはずだ。しかし、プラットフォーマーと外部のステークホルダーをつなぐ調整者の役割を誰が果たすのか。その点が鍵となることは間違いない。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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