コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【シニア】
第28回 放課後の子ども達とシニアの関わりの可能性

2018年05月22日 岡元真希子


1.「子ども達の放課後」の概観

 現在、小学校低学年の授業時間数は年間850~950時間であり、給食などの時間も含めると年間約1,200時間を学校で過ごす。これに対して、放課後や夏休みなどの長期休暇に過ごす時間は、約1,600時間に上ると言われる。育ちざかりの子ども達にとって、放課後や休暇の時間の過ごし方は重要な意味を持つ。学習指導要領に基づくカリキュラム以外のスポーツや音楽・文化などの多様な体験をしたり、関心がある学習領域を掘り下げて学んだり、学級の枠を超えて異年齢と交流したりするなどの機会となり得る時間である。放課後に、自分の好きなこと・やりたいことを見つけたり、個性を伸ばしたりすることは、成長の大きな糧になると考えられる。

 放課後を自宅以外で過ごす場合の主な居場所は、公的な受け皿と民間サービスとに大きく分けられる。前者は、放課後児童クラブ・放課後子供教室などであり、後者は従前からある習い事や学習塾、そして近年急増している「民間学童クラブ」と呼ばれるサービスである。ここでは公的な受け皿に焦点を当てて検討したい。

 放課後児童クラブは、保護者が就労等により昼間家庭にいることのできない小学生に、授業の終了後に遊びおよび生活の場を提供するものである。全国の市町村の9割以上が実施しており、拠点の数は約25,000カ所、約117万人の子どもが利用している(2017年5月時点、厚生労働省調べ ※1)。おやつを提供して夜6時以降まで子どもを預かり、週5日以上開設していることが一般的である。

 一方、保護者の就労状況にかかわらず、放課後の居場所を提供するのが放課後子供教室であり、全国の約6割の市町村で実施され、約9,000カ所で実施されている。(2016年6月時点、文部科学省調べ ※2)。地域の人材の参画を得て、学習やスポーツ・文化活動等の機会を提供している。放課後子供教室の開催頻度は多様である。週5日以上の拠点は全体の約16%であり、週2~4日が約33%、週1回が約23%。週1回未満が約24%を占める(日本総研『総合的な放課後児童対策のあり方に関する調査研究』)。地域の実情に合わせて、多様な運営を行うことができるのが放課後子供教室であるといえる。

2.放課後拠点の担い手とシニアの社会参加ニーズ

 放課後児童クラブは有給の職員が運営の主な担い手である場合が多いが、放課後子供教室はボランティアが活躍している。放課後児童クラブの運営に携わるボランティアの人数が平均では2.9人であるのに対し、放課後子供教室には平均33.7人のボランティアが携わっている(日本総研『総合的な放課後児童対策のあり方に関する調査研究』)。全国の約4割の自治体では放課後子供教室を実施していないが、その理由としては「コーディネーターや教育活動推進員等の人材確保が困難」が最も多く63.3%に上る(2016年6月時点、文部科学省調べ ※3)。地域住民のボランティアを確保できるかどうかが放課後子供教室の設置を左右するとも考えられる。

 この担い手として、シニアの活躍が期待できるのではないだろうか。現在仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えており、「70歳くらいまで、もしくはそれ以上」との回答と合計すれば、約8割が高齢期にも高い就労意欲を持っている様子がうかがえる(内閣府『高齢者の日常生活に関する意識調査』(平成26年))。また、現在仕事をしていない高齢者のうち、65~74歳男性の約33%、75~84歳男性の28%、65~74歳女性の約10%、75~84歳女性の約5%が「今後働きたい」と回答している。高齢になっても就労意欲は衰えない。ただし就業頻度は、週数回・半日程度を希望する人が多い。(日本総研「シニアの暮らしに関するアンケート調査」(2018年3月))。

 放課後子供教室の開催頻度も週数回以下の拠点が多く、月に数回という拠点もある。放課後~午後5時程度の開催であることが多く、準備や片付けの時間を考えても、週数回・半日という高齢者のニーズにマッチする。地域によって運営形態は異なるが、無償のボランティア・有償ボランティア・非常勤職員として参加するなど、さまざまな「働き方」があり得る。

3.放課後拠点の活動内容とシニアの活躍の可能性

 活動内容は拠点により多種多様だが、放課後子供教室のなかには凧作りや紙飛行機作り、コマ回しやけん玉などの伝承遊び、囲碁・将棋、習字やいけばな、花や野菜を育てるなどの活動を実施している拠点が見られ、シニアの既存のスキルを活かせるプログラムが少なくない。また、下校の見守りやおやつづくりなど、プログラムの中身ではなく運営の面で関与してもらうことも考えられる。

 社会的な活動(貢献活動)をしている高齢者は「新しい友人を得ることができた」、「地域に安心して生活するためのつながりができた」、「社会に貢献していることで充実感が得られている」、「健康維持や身だしなみにより留意するようになった」などのメリットを感じている (内閣府『平成29年度高齢社会白書』)。

 放課後子供教室の運営にシニアが参加することで、子どもには興味・関心・意欲の向上や、社会性や協調性の醸成が、シニアには地域生活における安心感や社会貢献による充実感などの実現が図られよう。こうした双方のメリットを期待したい。

※1.
厚生労働省
平29年(2017年) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況

※2.
文部科学省・厚生労働省 放課後子ども総合プラン連携推進室
「放課後子ども総合プラン」の推進状況等について(平成29年1月23日)(PDF:156KB)

※3.
文部科学省・厚生労働省 放課後子ども総合プラン連携推進室
「放課後子ども総合プラン」の推進状況等について(平成29年1月23日)(PDF:156KB)


この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ