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ソーシャル・インパクト・ボンドの普及に向けた課題と展望
~全国自治体アンケート調査の結果を踏まえて~

2018年05月22日 大島裕司、本田紗愛、黒澤仁子、江頭慎一郎、國只麻未


■調査の目的
 株式会社日本総合研究所は、全ての地方公共団体(地方公共団体の組合、財産区を除く。以下同様)を対象に、「ソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond、以下「SIB」)に関するアンケート調査」(以下「本調査」)を2018年1月時点に実施した。
一般的なSIBのスキーム


 現在、社会の急速な変化に伴い様々な面で格差やニーズの多様化が起こっている。一方で、自治体の予算・人員は共に逼迫しつつあり、独力でそれらに対応することは困難な状況にある。このような状況において、社会課題の解決に向けた官民連携の仕組みとして注目されているのがSIBである。SIBとは、社会・地域の課題解決に向けた民間投資スキームの一つであり、1)社会課題解決のための事業を民間資金で実施し、2)(事業実施によって)実際に社会課題が解決につながったと判断された時点で自治体が資金提供者に支払を行う成果報酬型契約の仕組みである。
 政府も新たな官民連携事業としてSIBに注目しており、未来投資会議等でも積極的な議論や研究を進めている。実際に政府では、保健福祉分野においてSIBなどの社会的インパクト投資を広げていくとする内容を平成29年6月に閣議決定するなど具体的な施策が始まりつつあり、今後はさらに様々な領域でSIBが広がることが予想される。
 本調査は、今後の伸長が期待されるSIBに対する自治体の取り組みの現状や適用可能性領域、推進にあたっての課題等を把握することにより、SIBの普及促進に向けた政策提言の資料とすることを目的に実施したものである。

■調査の実施方法
調査期間:2018年1月
実施方法:郵送による配布/郵送とFAXによる回収
調査対象:全国の都道府県、市区町村 計1,788団体(2018年1月時点)
有効回答数:558サンプル(回収率:31.2%)

■調査結果の概要
・SIBの導入が想定される課題領域について、回答自治体のうち半数以上の自治体から、「高齢化」「公共施設」「地域コミュニティ」「公共交通」をはじめ多様な課題領域が挙げられた。
・それぞれの課題領域の具体的な内容については、「不登校・引きこもり対策」「生活困窮家庭の支援」「子育て世代の移住・定住・結婚促進」「空き家の利活用」など多様な課題が挙げられており、社会課題が複雑多様化している状況がうかがえる。ここで挙げられた社会課題については、解決の重要性が認識されながらも、自治体の従来の取り組みでは解決困難なものが多いと言える。

※回答数の合計は1,456件(無回答含む)

・これらの社会課題を解決するために、約1割の自治体は、SIBを導入したり、導入を検討したり、情報収集したりするなど、具体的なアクションを起こしている。
・SIBについて興味・関心を持っているものの情報収集は行っていない自治体が、約7割存在している。これら自治体は、今後具体的なアクションを起こし得る予備軍とみることができる。
・すでに具体的なアクションを起こしている自治体と、今後具体的なアクションを起こし得る自治体を合計すると、約8割に上る。

・自治体の種類別にみると、特別区・政令市・中核市では比較的SIB導入に対する興味・関心が高い傾向がある。

・また、SIBの導入に積極的な自治体が興味・関心のある課題領域としては、「高齢化」「健康」という回答が多い。

※回答数の合計は206件

・さらに、「高齢化」「健康」と回答した自治体のうち、SIBに興味・関心を持った理由については「行政コストを削減できる」が比較的多い傾向がある。
・前述の地方自治体の種別の回答結果と合わせると、SIBに興味・関心が高いのは特に人口規模の大きい自治体であり、これらの自治体は介護保険料、医療費等の削減費用を原資としたSIBの構築に期待している可能性がうかがえる。

・SIBの導入に興味・関心を持った理由については、民間のアイデアや社会課題の解決など、定性的なメリットを重視する傾向がうかがえる。

・SIB事業を推進する上でのボトルネックについての回答をみると、「SIBの事業構築コストに対する具体的成果(費用対効果)の創出」、「適格なサービス提供者の見つけ方、選定の仕方」、「成果を判断する指標の設定」などが上位になっている。

※回答延数の合計は387件

■調査結果のまとめ
 本調査結果によって、SIBに対して既に積極的な取り組みを進めている自治体は1割、今後取り組む可能性のある自治体は7割程度存在することが明らかとなった。このことからも自治体におけるSIBへの期待は非常に高いといえる。
 なかでも、深刻化する医療・介護費用の増大など、高齢化対策へのニーズが高く、それらに対する民間ノウハウの有効活用手法として、SIBへの期待が高い結果となった。
 一方、今後のSIBの普及という観点からは、前述の取組可能性のある7割の自治体がSIBを実行しやすい環境を整えていく必要があるが、現状では、「適格なサービス提供者の見つけ方、選定の仕方」「成果を判断する指標の設定」「庁内での合意形成」等について、自治体が課題として認識していることがわかった。

■調査結果を踏まえた今後のSIB普及に向けたポイント
 SIBの普及に向けて、本調査で浮き彫りとなった自治体が懸念する障壁のクリアに向けた主なポイントは以下となる。
①国等が提供する情報の有効活用
・国がSIB構築に向けたガイドライン等を作成、発信していくことは、自治体がSIBにチャレンジしていく際のきっかけとなるとともに、自治体がSIB構築に向けて知見を獲得する点で効果的である。「地方公共団体向けヘルスケア領域におけるソーシャルインパクトボンド導入ノウハウ集」も、そうした目的から日本総合研究所が経済産業省から受託し作成したものである。
②専門機関の有効活用
・自治体内の限られた人員のなかでSIB事業をゼロから構築していくことは容易ではない。よって、SIB構築にあたってのマーケットに関する調査や難易度の高い調整については、専門機関を積極的に活用していくことで、自治体側の担当者の負担を軽減することが可能となる。特に、専門機関が第三者として入ることで、自治体・民間の意見を聴取しながら、双方にとって最適な成果水準を設定することなども可能となる。
③自治体内部での情報共有等の推進
・自治体では成果を評価してから支払いを行う考え方で事業を実施するケースがそもそも少なくなじみがないため、成果発注というSIBの方法自体に抵抗感があると考えられる。よって、自治体内部におけるSIBの勉強会の開催、あるいは外部の関連セミナー等の活用を積極的に行うことで、まずはSIBに関する情報を取得し、それを自治体内部で共有していくことが重要となる。特に、これはSIBの事業構築という視点だけではなく、事業をアウトプットで評価するのではなく、実際の課題にどう有効であったかというアウトカムで評価する発想へ転換を促す機会ともなる。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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