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【次世代農業】
次世代農業の“芽”第8回 オランダに学ぶ農業データ利活用のための仕組み

2018年04月10日 前田佳栄


 農作物の栽培において重要なノウハウの一つが、いつ、どのような作業をするかの決断である。農作物の栽培は、耕運や施肥から始まり、播種、育苗、定植、防除、追肥、摘葉、摘果、収穫というように、作物毎にある程度手順が決まっている。しかし、実際に何月何日に播種するか、どの種類の肥料をどの濃度でどれだけ撒くか、摘葉の際にどの位置の葉を何枚取り除くか、といった内容は農業者自身が判断する。ベテランの農家であれば長年の経験や研究に基づいて感覚的に決められるが、経験の浅い農業者にとっては特に難しい判断である。近年では、農業IoTの広まりによって農業のデータ活用が進んでおり、各種センサーを用いて気象や土壌といった環境情報の取得・分析を行い、その結果を基に作業計画の支援サービスを提供する企業が増加している。一方で、情報提供によって、自身のノウハウが外部に漏れてしまうことを危惧する農業者も多い。

 施設栽培に関して言えば、上記のような作業計画に加え、気温や湿度等の変化に応じてハウスのビニールを開閉するといった判断や操作が日常的に求められる。この点で先進的なのがオランダ型施設園芸であり、Priva社、Hoogendoorn社、Hortimax社等の環境制御システムが広く普及している。同システムでは、温度、湿度、光量、二酸化炭素濃度等のさまざまな環境情報を各種センサーによって収集し、そのデータを基にして空調や遮光カーテンの開閉、照明の点灯等の制御が自動的かつ統合的に行われる。オランダはアメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国であるが、その要因の一つとしてこのような技術的な強みがある。

 オランダ型の環境制御は自動的かつ統合的に行われるとはいえ、実際には制御の指標となる設定温度等のパラメーターを決めるのは農業者自身である。例えば、積算温度(生育期間中の気温の合計)が開花のタイミングを決める要因の一つであるように、パラメーターの設定次第で作物の生育や出来が変わってくる。農業者は長年の経験と研究によってこれらのノウハウを蓄積しており、これが農業者の競争力の源泉となっている。農業のビジネス化に伴う農業者間の競争の激化に伴い、かつては農業者間で共有されていたノウハウが個人に閉じるという傾向が顕著になっている。他方で、農業者のノウハウ不足を補完する農業技術コンサルティング会社が台頭し、彼らの独自の研究により蓄積されたノウハウが有償のサービスとして農業者に提供されている。

 一見、環境制御システムの企業であれば、環境情報の収集や分析を行い、最適なパラメーターを提示するサービスが容易に行えるのではないかと考えられる。しかしながらそのようなサービスはあまり見られない。というのも、これらのデータは個人情報に該当するため、企業ではデータを保有できないのである。オランダでは、農業者からの委託を受けて収量予測等のサービスを行う企業も存在しているが、数はごくわずかである。

 オランダ型の施設園芸は環境情報のデータの利活用によるさらなる発展の可能性を秘めているにもかかわらず、情報の閉鎖性によってこれが妨げられている。日本での農業データの利活用を考える上では、その農業者のノウハウの価値を正しく評価し、権利を擁護した上で、積極的に情報を公開できるようにする仕組みが必要だろう。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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