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介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の標準的手法に関する調査研究事業

2018年04月10日 岡元真希子


*本事業は、平成29年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の目的
 介護保険法に基づく介護保険施設等に対する指導監督は、高齢者の尊厳を支えるケアの継続的な提供、そして介護保険制度への信頼性を担保する重要な業務である。国が示した基本的考え方などを参考に、都道府県・指定都市・中核市が指導・監査を実施している。しかし、行政処分を実施するにあたって、処分の基準となる内規などを持たず、過去の処分事例や近隣自治体からの情報収集に基づいて、処分の程度を都度判断している自治体も少なくない。
 近年、介護サービス事業者の増加、サービス提供方法の多様化、改正介護保険法による権限の一部移譲等に伴い、指導監査手法の効率化が重要となっている。その一方で、社会保障審議会介護保険部会等においても、自治体間で指導監査内容に不整合が見られること等が指摘されてきた。
 そのため、指定取消処分等の適切な実施や標準的手法の提示を目指し、自治体の意見を取り入れた具体的な処分基準例を取りまとめることを目的として、本調査研究を実施した。

2.事業の主な内容
(1)処分基準例(案)に関する自治体調査(採点票)
 調査対象:平成28年度ならびに平成29年4月~8月に、不正請求、人格尊重義務違反、不正の手段による
      指定申請(虚偽申請)を事由として、効力停止または取消の行政処分を実施した都道府県・
      指定都市・中核市・一般市
 調査方法:電子メールにて調査票を配布・電子メールにて回収
 回収数:不正請求 109票               (有効回収率91.6%)
     人格尊重義務違反 22票           (有効回収率100.0%)
     不正の手段による指定申請(虚偽申請) 31票 (有効回収率91.2%)

(2)処分基準例(案)に対する点数配分の検討
 質問紙調査の結果に基づき、点数配分を変えた11のパターンを作成し、違反の程度を示す点数と、処分の区分との関係がより明確になるものを探索した。

(3)処分基準例(改訂案)の作成
 (2)の検討結果をもとに、平成28年度調査研究で作成した処分基準例(案)を土台として、点数配分を見直した「処分基準例(改訂案)」を作成した。

3.調査研究事業の主要な成果
(1)処分基準例(案)に関する自治体調査(採点票)
①不正請求
 不正請求を事由として処分された事例109件の採点票について分布を見ると、取消となった事例の72事例の平均点数は、効力停止となった37事例の平均点数よりも約3点高かった。さらに、サービス種別で、施設サービス、施設関連サービス(短期入所など)、居住系サービス(認知症対応型共同生活介護など)は、利用者保護などの観点から、処分が軽くなる傾向があるこれらを除外し、「在宅」サービスのみで集計したがほぼ同様の結果であった。

②人格尊重義務違反
 人格尊重義務違反を事由として処分された22事例の採点票については、取消となった事例の平均点数よりも、効力停止となった事例の平均点数のほうが低くなり、違反の程度の目安となる点数と処分の重さが逆転した。ただし、取消となった事例は2件しかなく、分析対象とする事例数が少なかったため分析が困難であった。

③不正の手段による指定申請(虚偽申請)
 不正の手段による指定申請(虚偽申請)を事由として処分された31事例の採点票について分布を見ると、取消となった25事例の平均点数と効力停止となった6事例の平均点数に大きな差はなかった。

(2)処分基準例(案)に対する点数配分の検討
①仮説の作成
 複数パターン作成した採点票の点数配分に考察を加えるにあたって、まず取消事例と効力停止事例との平均点数を比較した。さらに、正規分布であれば、平均値±標準偏差(μ±σ)に全体の約67%が含まれる。指定取消の点数分布における平均値±標準偏差の範囲と、効力停止における平均値±標準偏差の範囲が重なっていなければ判定基準として一定程度有効であると考えられるため、この数値の比較も行った。

②点数パターンの作成
 平成28年度調査研究で取りまとめた処分基準例(案)〔ケース1〕をもとに、点数配分を変えた11のパターンを作成した。具体的には、要素(故意性、組織的関与など)ごとの重み付けを検討する出発点となる基本ケースとして、違法行為、金額、故意性、継続性、組織関与の5項目について、最小1点、最大3点として、中間の点数は等間隔とした「ケース2」を作成した。ケース2を土台として、各要素の重み付けの条件設定を調整したケース3~11の9つのケースを作成した。例えばケース3では「違法行為」(架空請求・水増請求等)の項目を最高5点、ケース4では不正請求の金額の大きさを最高5点にするなどとして重み付けした。点数配分の検証は、採点票の回収件数が多い不正請求について実施した。

③点数パターンの検証
 重み付けを変えたパターン3~パターン11について検証を行った結果、平均点数については、取消のほうが効力停止よりも必ず高くなった。一方、「平均点数±標準偏差の差」については、理想的な正の値になるものは一つもなかった。負の値のうち最も数値がゼロに近いものは、継続性に重みをつけたケースと、故意性に重みをつけたケースであった。

(3)処分基準例(改訂案)の作成
 以上の検討結果を踏まえ、平成28年度の調査研究結果(ケース1)をもとに、処分基準例(改訂案)を作成した。故意性、不正の期間の重み付けを増やすとともに、マイナス得点の取り扱いをより厳格にした。金額が小さい、期間が短い場合について、他の項目を相殺するマイナス得点を設定することは不適切と考え、小さい・短い場合はゼロ点とした。マイナスを認めているのは「軽過失」の場合ならびに、「不正行為を知りえた時点で速やかに報告・改善措置を取った」場合のみとした「ケース12」を作成した。ケース12をケース1と比較し点数分布からその妥当性を確認した。
 不正請求について作成した処分基準例(改訂案)の考え方をもとに、人格尊重義務違反と不正の手段による指定申請(虚偽申請)についても同様の改訂を行った。

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の標準的手法に関する調査研究事業 報告書(PDF:2950KB)


本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター マネジャー 岡元真希子
TEL: 03-6833-1575   E-mail: okamoto.makiko@jri.co.jp
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