コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2018年2月号

金融リスク抑制策を強化する中国

2018年01月25日 三浦有史


中国政府は金融リスク抑制に向けた動きを本格化させている。どのような政策がとられているかを概観し、その効果を検証するとともに、今後を展望する。

■懸念される中小銀行の資金繰り
中国は、2018年の経済政策の枠組みを決定する中央経済工作会議において、金融リスクの問題を取り上げ、シャドー・バンキングを含む実体経済に対する資金供給量を示す「社会融資規模」の伸びを抑制する方針を示した。商業銀行の不良債権比率は、2017年9月末時点で1.74%と低水準で安定的に推移している。にもかかわらず、金融リスクが警戒されるのは、株式制商業銀行や都市商業銀行に代表される中小銀行が、銀行間市場や理財商品といった短期の資金調達への依存を強め、資金繰りに行き詰まる流動性リスクが意識されているためである。

中央銀行である人民銀行は、2016年から「マクロ・プルーデンス評価」(MPA)と呼ばれる監視システムを導入し、銀行の経営健全化を促してきた。MPAは、バランスシートや貸出を7項目で評価し、その結果に応じて人民銀行に預ける準備預金の利率に差をつけるというものである。政府は、2017年から、銀行業監督管理委員会(銀監会)がMPAを補完するかたちで銀行間市場取引の規範化を進める一方、人民銀行が理財商品の販売で調達したバランスシート外の資金の運用部分をMPAの監視対象に組み込むなどして、中小銀行に短期資金への依存を改めるよう促してきた。

その効果は現れつつある。銀行間マネー・マーケットにおける資金調達を拡大していた中小銀行は、2017年に入り同市場への依存度を低下させている。また、銀行が組成・販売する銀行理財商品の残高も2017年6月末時点で28.4兆元と、ピークの同年1月から1.9兆元も減少した。株式制商業銀行の減少幅は1.2兆元と、大型商業銀行の0.4兆元を上回り、中小銀行が理財商品の発行を控え始めたことがわかる。ただし、いずれも効果が十分ではないとの判断から、政府はその後も金融リスク抑制に向けた政策を打ち出している。

■資金調達構造の見直しを迫る
金融リスク抑制効果が期待される最近打ち出された政策として次の三つを挙げることができる。第一は、銀行間債券市場に対する規制強化である。中国では同市場で譲渡性預金証書(NCD)を発行し、資金を調達する中小銀行が増加している。これを危惧した人民銀行は、2017年9月、1年超のNCDの発行を禁止し、2018年からは資産が5,000億元を超える銀行が期間1年未満のNCDによって調達した資金をMPAの監視対象に加えると発表した。銀行間債券市場で資金を調達しているのはもっぱら中小銀行で、資産5,000億元超に該当する株式制商業銀行と上位都市商業銀行のNCDを通じた資金調達は大幅に減少すると見込まれる。

第二は、理財商品に対する規制強化である。政府は11月、「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」の草稿を発表した。これは、人民銀行、銀監会、証券監督管理委員会(証監会)、保険監督管理委員会(保監会)、外為管理局の連名によるもので、行政の縦割りに起因する規制の抜け穴を塞ぐとともに、金融機関の資産管理業務の規範化に本格的に取り組む意思を示したものと位置付けることができる。同意見は2019年6月までを過渡期と設定しているものの、意見に反する理財商品を新たに組成・販売することは禁止されているため、理財商品への依存度が高い株式制商業銀行の理財商品を通じた資金調達は減少に向かうと予想される。

第三は、流動性リスクの管理強化である。銀監会は、12月、「商銀銀行の流動性リスク管理弁法」の草案を公表した。これは、バーゼルⅢで議論された安定調達比率や流動性カバレッジ比率といった指標を導入し、リスクに対する耐性を高めようというものである。同弁法は、資産2,000億元超の銀行を主な対象とし、2018年3月から施行されることになっている。資産2,000億元超の銀行には、株式制商業銀行や都市商業銀行はもちろん上位農業商業銀行も含まれ、短期資金への依存が強い銀行は資金調達構造の見直しを余儀なくされる。

■短期資本に依存する中小銀行は業績悪化
以上の政策の結果、中国は金融リスクの抑制に向けて大きく前進すると見込まれる。しかし、それは必ずしも中国が持続可能な安定成長軌道に乗ることを意味しない。銀行、なかでも中小銀行を取り巻く環境は厳しさを増すことから、その変化に対応できない銀行が現れる可能性がある。一口に中小銀行といっても、資金調達構造は銀行によって大きく異なる。2017年6月時点のNCDへの依存度をみると、株式制商業銀行は4.9~13.5%、都市商業銀行も12.0~19.8%とかなりの幅がある。こうした現象は銀行間マネー・マーケットや理財商品についてもみられ、短期資金への依存度が高い銀行ほど業績悪化のリスクが大きい。リスク抑制策は一気呵成に進めることが難しく、金融秩序の維持や実体経済への影響に配慮した慎重な運用が求められることになろう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ