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CSRを巡る動き:企業経営と健康に関する認証制度の広がり

2018年02月01日 ESGリサーチセンター


 経済産業省と東京証券取引所の行う「健康経営銘柄」の選定が2018年で4年目を迎えます。本取組はこれまで、健康経営に対する「経営理念」や「組織体制」、「制度・施策実行」といった項目により評価された法人を毎年二十数社選定してきました。2015年の初回実施以降、徐々に知名度を上げ、選定のためのアンケート調査に協力する企業数も、昨年は初回対比1.5倍に増やす等の広がりを見せています。これに加え、2017年は経済産業省と日本健康会議の連携により、企業規模に応じた評価軸を持つ健康経営優良法人認定制度が開始され、大規模法人部門では235法人、中小規模法人部門では318法人が選定されました。経済産業省は健康経営を、「従業員への健康投資を生産性の向上や優秀な人材の獲得、ひいては国民のQOLの向上につなげるもの」として積極的に位置づけ、上述の二つの制度を活用することで、健康経営が評価される社会環境の整備を進めています。

 日本国内では行政の主導で健康経営企業の認定が進んでいますが、米国を中心とした海外では、「健康」と「建物」を結びつけた興味深い取り組みがあります。米国の公益法人The International WELL Building Instituteが2014年に立ち上げた「WELL Building Standard(以下WELL)」がそれです。WELLは、建物が利用者の健康に与える影響を評価するシステムで、グリーンビルディングに対する評価システム(LEED)同様、GBCI(Green Business Certification Inc.)によって第三者評価が行われます。建物への評価は医学的な知見をベースに、①空気(空気の清浄化)、②水(用途に合わせた最適な質の水の提供)、③食物(新鮮で健康に良い食品の入手可能性)、④光(概日リズムに合わせた光環境の提供による生産性の向上、質の高い睡眠のサポート)、⑤フィットネス(運動機会の提供)、⑥快適性(生産的で快適な屋内環境)、⑦こころ(認知及び情緒的健康の最適化)、の7項目について実施されます。特に、最新バージョンであるWELL v1は業務用や機関組織用のオフィスビルに最適化されており、「快適性」、「こころ」の項目ではオフィスビルにおける生産的な環境づくりや、職場における家族サポートといった具体的な指標が含まれています。WELLの登録もしくは認証取得対象のプロジェクトは開始4年足らずで世界31か国、660件を超え、床面積では1,022万㎡以上の不動産を獲得したという実績を上げています。日本国内ではまだ6件の実績(承認済1件、登録済5件)に留まりますが、同一機関によって認証されているLEEDの日本国内での知名度向上に伴い、今後WELLが日本国内で普及していく可能性も十分にあると考えます。

 健康を企業経営と結びつける「健康経営」と、建物が利用者の健康に与える影響を評価する「WELL」とでは若干方向性の違いはありますが、「健康」を生産性の向上と結びつけ、ステークホルダーのQOLを高めるものと位置付ける視点は一致しています。日本の生産性が先進諸国と比較して低いという事実が危機感を持って伝えられる中、従業員の健康への配慮により個々の潜在能力を引き出すという科学的なアプローチをとることも、一つの有効な解決策であると考えられます。また、従業員の「健康」というテーマに向き合うことは、従業員が一労働力であるだけではなく、一人の人間であることを改めて明示してくれます。従業員を一人の人間として配慮する思想は、労働者の人権の尊重にも繋がるのではないでしょうか。本稿で紹介した各種制度を後押しとして、日本国内で健康経営が広がり、またそれが日本人の労働環境を改善させていくことを期待しつつ、今後の動向を見守りたいと思います。
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