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中長期的新規テーマの創出・評価における望ましい「問いかけ」

2018年01月12日 時吉康範


 先日、100周年を前に次の100年に向けた長期ビジョンを策定したいと考えている大手メーカーの企画部長が参集する会合で、「未来洞察による事業機会領域の探索」のお話をさせていただく機会を頂戴した。
 質疑応答の時間で、参加者の一人が、「日本総研と言えば、この考え方がしっくりくるのですが」と、以下の弊社ウェブに掲載されている資料を提示された。


「製造業の新規事業・新商品開発の成功に向けて」P22


 質問者は筆者自身が10年も前に書いたものとは知らなかったようだが、確かに、「売れるのか、勝てるのか、出来るのか、儲かるのか」は、4つの新規テーマの普遍的な評価項目を口語的にテンポよく表しており、さすがに筆者の師匠がよく口にしていた言葉だけ(要するに、筆者は実は紙に落としただけ)あって良い仕上がりだと思う。

 ただし、未来洞察を活用した中長期的なテーマ創出を本業とする今は、短期的な技術マーケティングを本業としていた10年前とは異なる見方をしている。
 短期的な新規テーマと中長期的な新規テーマの評価項目は普遍的でよくても、テーマへの「問いかけ」は異なるものにしなければならないということである。
 そこで、これまで新規テーマ創出のファシリテーションや講演・講座の質疑応答で話していた内容を言語化して整理したのが以下の表である。

表:中長期の新規テーマへの異なる時間軸による「問いかけ」の違い


出所:日本総研作成


事業の定義
 「誰に何を売るか」の問いは普遍的だが、中長期では事業や製品のビジョン、つまり、その事業や製品の開発をした結果「何を実現したいのか(コンセプトとも言う)」が必須になる。新規テーマの筋のよしあしという観点だけではなく、開発活動の時間軸の長さに起因する環境変化、紆余曲折などに対応した創意工夫が最終的な成否に影響を与えるからである。
 このビジョン・コンセプトの重要性は、『MOTの達人』(森健一、鶴島克明、伊丹敬之著 2007年 日本経済新聞出版社)が、東芝のワードプロセッサ開発の事例紹介を通して分かりやすく解説しているので参照されたい。

事業概要
 短期的には、「顧客が見えているか、どのような仕様の製品を売るか」といった「具体性」が重要な問いになるが、中長期では、顧客は想定した顧客であり、製品も固めきれないため、「どのような顧客が考えられるか、どのような機能を提供したら喜ばれるか」といった「狙い」が重要である。

市場性
 短期的には、事業や製品の見えている市場の規模や成長が問われるが、中長期的には、見えていない事業・製品の規模や成長を考察することが多い。このため、市場性では、当該事業や製品の背景となる「社会変化」に着目し、「どの程度大きな変化なのか」に思いをめぐらせてみる。定量的な試算においては、提案する事業・製品が既存の製品の価値や機能をどの程度代替するものか、すなわち、被代替品の市場規模から推察することが出来る。
 この前提を追記すると、価値と機能の観点では、世の中に「全く新しいもの」は存在せず、全く新しいものは、自然法則の新たな発見や技術のブレークスルーによってのみ発現する。

競争力
 短期的には、目先の競合他社に勝つことが問われるが、中長期的には、競合は特定できず、その姿は見えていないことが多い。このため、競争力では、「自社の特長や独自性が活かせそうか」を問う。この問いかけは、実現性にある「出来そうか」、事業概要にある「自社が取り組む意義は何か」と関連している。

実現性
 短期的には、出来ることを提案すべきだが、中長期的には「どうやったら出来るのか」を問い、事業・製品ビジョンの実現のための手段を幅広く考察し、「市場開発の連続性と技術開発の連続的ストーリー」を組み立てることが問われる。

収益性
 短期的には、売上・コスト(投資)の観点で儲かるかを問うべきだが、中長期的には「いくら金がかかりそうか」、つまり、どの程度のリスクがあるのか、当該取り組みと提案者にだまされたと思って「いくらドブに捨てればよいのか」を把握しておく。

 新規テーマを提案する現場と審議する経営が、短期的テーマと中長期的テーマの時間軸の違いによる問いかけの違いをきちんと認識したうえで、中長期的テーマの創出に望ましい問いかけを、組織全体で共通言語化を図ることを期待する。
 なお、コラムの制約につき、本稿はポイントのみを記したので説明の不親切さはご容赦のほど。投稿、講演の場で別途丁寧にお話ししようと考える次第である。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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