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中国でのEV充電ネットワーク運営事業の潜在力

2018年01月16日 程塚正史


1.世界一に向けた中国EV産業発展の岐路となる2018年
 2017年、中国でNEV規制の開始が決まった。2019年以降、中国国内で自動車を販売する事業者に対して一定量の新エネルギー車(以下、「EV等」と呼ぶ)の製造を義務付けるものだ。
 これまでの中国のEV関連政策は、研究開発や製造への補助、購入補助、ナンバープレート規制での優遇措置など、自動車メーカーにとっては専ら「アメ」であったが、「ムチ」側の政策が始まることになる。
 これまで筆者は、EV普及の先進地として中国を第一に挙げてきたが、今後も予定通りEVが本格的な拡大期に入るか、「アメ」から「ムチ」への政策移行によって失速するかの岐路に差し掛かっているといえる。
 すでに2017年時点で、NEV規制を受けてか、これまでEV等の生産に消極的であった東風汽車、長安汽車、第一汽車という国営大手3社の提携が表面化するなど業界再編が現実化している。その他の大手企業によるEVベンチャーの買収も進むなど、業界内の合従連衡が加速しそうだ。
 この業界再編の成否は、EV等が今後も順調に普及するか否かに大きく影響し得る。

2.EV産業拡大に不可欠な充電ネットワーク運営事業
 自動車メーカーの動向に注目が集まるが、同じく注視したいのが、EV充電ネットワーク運営事業の動向だ。
 2020年時点で、中国ではEV等の500万台普及が目標となっている。この規模のEV等の充電ニーズを賄うために、中国政府(工業情報化部)の目標では、同じく2020年までに480万カ所の充電設備を整備するとされている。
 これらの充電設備は、日本とは異なり、それぞれ孤立して設置されるわけではない。中国では、スマホアプリ等ですべての充電設備の位置、稼働状況、満空状況が分かるようになっている。また、充電料金は設置場所によって一様ではないため、付近の充電料金の中での最安値や、道路状況を考慮して最短時間で到達できる設備を検索することが可能だ。
 EV等の充電スポットは(日本での議論では)出発地充電、到着地充電、経路充電に分類されるが、このうち経路充電の利便性向上は、EV等の普及にあたってどの国・地域でも不可欠である。利便性の高い  経路充電インフラがなければ、利用者は電欠の不安からEVを利用しにくい。
 経路充電の利便性を高める充電ネットワーク運営事業が持続可能であることは、中国のEV等の普及に必要だ。この事業の成功は、完成車メーカーの生産力拡大と並んで、今後の中国でのEV等のさらなる拡大にとってのカギとなる。
 だが、2017年半ばごろから、中国国内では、この事業の赤字体質が取りざたされるようになってきた。

3.プラットフォーム事業としての充電ネットワーク運営
 充電ネットワーク運営事業は、国家電網、普天集団、特来電、万幇の4社が大手である。これらの企業は、設備をネットワークで結び、その情報を常時監視し、スマホアプリ等で利用者に提供している。単純に言えば、充電料金にシステム料金を上乗せして収益を上げるのが現在のビジネスモデルである。
 現在、これらの事業者が赤字に陥っていると言われている。筆者自身による大手4社への直接のインタビューを踏まえても、たしかに情報提供事業だけで単年度黒字に至っていないことは間違いなさそうだ。
 一方で、国家電網や普天は公営企業であり、政府指導の詳細や見返りとしての補助金等がどの程度かは分からない。特来電や万幇は充電設備製造事業を有しており、その普及のためにネットワーク運営を行っているという側面もある。つまり、たしかに単事業としては赤字かもしれないが、政府との連携や本業支援を考慮すれば全体としてはペイしているとも考えられる。
 ただ、充電ネットワーク運営事業を、補助金依存事業や本業補助事業として位置づけるのは悲観的にすぎる。
 というのは、これらの事業が握っているのは、EV等の利用者が日常的に利用するサービスであり、充電料金の決済システムである。現時点では、たしかにシステム料を上乗せする代わりに情報提供するというシンプルな事業だが、その情報提供サービスには、さまざまなモビリティ関連サービスを上乗せすることが可能である。例えば、ライドシェアなどの事業と連携したり、小売店のクーポン発行を代行したり、さらにはEV-VPPのようなB2B側に進出することも考えられる。
 世界中で、モビリティ産業のサービス化が今後間違いなく起きる。その際、中国で発展しつつある充電ネットワーク運営事業は、利用者とサービス提供事業者を結ぶハブ機能を持ち得るポジションにいる。
 現在は赤字体質が懸念される状況だが、今後の事業領域の拡大が期待できるといえる。そうなれば、情報提供サービス単体では黒字化ができずとも、モビリティサービスのハブとなることで事業性を確保し得る。
 モビリティ産業発展の方向性について考えるためにも、中国の充電ネットワーク運営事業がどのように変化するか、2018年以降の動向に注目していきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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