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アジア・マンスリー 2018年1月号

電気自動車の早期普及を目指すインド

2017年12月20日 熊谷章太郎


インドでは、電力の安定供給をはじめクリアすべき様々な課題が存在するものの、電気自動車の普及に向けた機運が急速に高まりつつある。

■2030年までに全ての新車販売をEVに切り替えることを目標
深刻化する大気汚染対策や二酸化炭素の排出抑制のため、近年、インド政府は排ガス規制や交通規制などの対応策を強めつつあり、自動車関連産業を中心に企業は環境規制対応に追われている。一連の取り組みのなかで、国内外からとりわけ大きな注目を集めているのが、電気自動車(EV)の推進計画である。

政府は、2013年に公表した「国家電気自動車計画(NMEM)」に基づいてEVやプラグインハイブリッド(PHV)の普及を図っているが、ゴヤル電力相は2016年3月に、この流れを一段と加速させるべく、2030年までに国内で販売される新車を全てEVに切り替える計画を検討していることを表明した。モディ首相も、2017年4月に政府のシンクタンクNiti Aayogの会合でEVへの切り替えを全面的に進める方針を示しており、近く新たなEV普及計画を公表するとしている。欧州では、フランスやイギリスが2040年に化石燃料を用いる自動車の販売の禁止することを表明しており、アジアでもその流れに追随する形で中国やインドネシアもEVに全面的にシフトする方針を打ち出すなど、EV普及を目指す動きが世界レベルで起こっている。しかし、インドでは国内の電力インフラが依然として整備の途上にあることを勘案すると、インドにとっては極めて野心的な取り組みであるといえよう。

なお、NMEMは2020年までに国内のEVの累計販売台数を600万~700万台に増やすことを目標としているものの、近年のEV・PHVの国内販売は年間数万台程度にとどまっており、目標と実態には大きなギャップが存在する。そのため、2030年に全ての新車販売をEVに切り替えるという目標の実現可能性についても懐疑的な見方が強い。しかし、モディ政権は、これまで高額紙幣の廃止やGSTの導入といった大胆な改革を、短期的な経済混乱を辞さない姿勢で実施した前例があり、EV普及に弾みをつけるため、ガソリン車販売規制やEV生産・購入への大規模な補助金給付などの思い切った政策対応が採用される可能性もある。インドの乗用車販売台数は、年間400万台とすでにASEAN5(インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム)における合計販売台数を上回る規模に達しており、今後も中間所得層の拡大に伴って中長期的に市場の拡大傾向が続くと見込まれる。そのため、インドにおけるEV普及は、国内の産業構造だけでなく、中間財や動力源に対するインドの輸入需要の構造変化を通じて各国に大きな影響を及ぼすインパクトがある。

■安定的な電力の供給体制が整うかがEV普及のカギ
EV普及に向けては、バッテリー技術の向上を通じた航続可能距離の改善、充電インフラ設備の整備、EV生産・購入促進に向けた税制・補助金制度の見直し、環境保護に関する消費者の意識改革など、様々な課題が存在するが、インドにとって最大の課題は電力供給体制の整備である。

電力省は2016年末に公表したエネルギー計画のドラフトで、太陽・風力を中心とした再生可能エネルギーを活用することにより環境負荷を軽減しつつも今後10年程度で電力供給を2倍強に増加する計画を示している。ただし、再生可能エネルギーによる発電効率が気象条件に左右されやすいことや発電設備の設置コストが高いことなどを踏まえると、EV普及に伴う需要増加に十分に対応できる安定した電力供給体制が確立できるかは不透明である。そのため、カーシェアリング事業を併せて推進し、電力需要の抑制を図ることが極めて重要となってくる。なお、前出のNiti Aayogは2017年5月に公表したレポートで、EVとカーシェアリングが共に広く普及すれば、2030年の自動車による輸送エネルギー需要はこれらが普及しなかった場合と比べて6割程度削減できるとの見通しを示している。そのため、これらの普及が達成されれば、貿易赤字の主因である中東からの鉱物性燃料の輸入も大幅に減少する見通しである。

他方、現在インド国内の大手自動車メーカーのEVの生産体制が極めて初期の段階にあることを踏まえると、国内の生産体制が整うまでは、現在EVの世界生産・販売の6割強を占める中国や米国などからの完成車・部品の輸入増加により、対中貿易赤字が一段と増加するとともに、対米貿易黒字が減少することになる。なお、EVはガソリン車と比べて部品数が少なく参入障壁が低いため、今後、インドを含む各国でEV普及に向けた取り組みが加速するとみられる。米中が中心となっている現在のグローバルな生産・供給体制の勢力図が急速に塗り替えられる可能性があり、注視する必要があろう。
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