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社会を洞察し、課題と向き合う期間の必要性

2017年11月20日 泰平苑子


 近年、オープンイノベーションやソリューション思考が声高に叫ばれ、日本企業は海外事例を引き合いに、そのための組織改革・事業再編・仕組み作りを進めている。しかし、こうした施策で社員が急にソリューション思考に変わり、イノベーティブな商品を生み出せるわけでは、決して無いだろう。オープンイノベーションはアイデアの創造プロセスでは無く、異なる視点から社会を洞察する事が必要であり、ソリューション思考は安易な解決策の提案では無く、その課題と向き合うことが本質であるはすだ。
 日本は「グローバル人材育成」「先端技術の高度人材育成」「起業家育成」などで決定的な遅れを取っている。グローバル人材とは異なる言語・文化・習慣を受入れ、新しい価値を提供できる人材であり、先端技術の高度人材とは研究開発により産業の育成と転換を担う人材であり、起業家は既存事業では難しい課題やニーズに対し、解決策を提案できる人材のことだ。どの人材も「社会を洞察し、課題と向き合うこと」が必要であると分かるだろう。これをおざなりにした人材育成では、オープンイノベーションもソリューション思考も生まれない。残念ながら、学歴・職歴・資格という釣書が優先される日本では「これまでとは異なる立場から社会を洞察し、共に課題と向き合う期間」の評価は高くない。ここで、あえて「期間」としたのは、一時的な体験ではなく3カ月から2年ほど必要と考えるからだ。

 例えば、欧米では「ギャップ・イヤー(Gap year)」という大学や大学院が始まる前に1,2年入学を延期できる制度があり、学生は多様な経験を通じて進路選択に活かしている。ギャップ・イヤーをウガンダの学校で過ごしたある学生は、現地でスポーツや音楽の大切さを知り、エクソン・モービルへアプローチして同社と共同で備品購入ファンドを立ち上げ、学校にスポーツや音楽に関する備品を寄付する活動を行った。この学生は大学入学後、国際開発学でアフリカのベンチャー支援に取り組んでいる。また、オセアニアにおいても、ギャップ・イヤーの一種として「OE(Overseas Experience)」が普及している。
 NPOの勤務経験から、現実の社会を知ることもできる。アメリカの新卒の就職ランキング上位には、全米の学校に1年間派遣される「ティーチ・フォー・アメリカ(Teach for America)」がある。ITエンジニアには、地方自治体に1年間派遣されITで課題解決する「コード・フォー・アメリカ(Code for America)」が大人気だ。派遣終了後も地域に残り、貢献するメンバーも多くいる。
 さらに、サムスンを初めとした韓国企業は「地域専門家制度」を通じ、他国の未進出地域に社員を派遣し、1年間徹底的にその地域の言語・文化・習慣を熟知させ、地域に深く入り込む人材育成・市場開拓を行う。重要な点は社員が現地の人々と信頼を築き、彼らの生活習慣を理解することだ。これにより自社による課題解決の糸口を見つけられる。

 日本でも、地方創生インターンシップや海外インターンシップなどの職業経験、新興国や途上国への留学による学業体験を通じた機会は増えてきたが、まだ門戸は限られている。高校と大学、大学と大学院、就職や転職の前、在職中にこのような機会を得られる仕組みを作ることはできないだろうか。と同時に、日本社会に「社会を洞察し、課題と向き合う期間」の価値を評価する雰囲気を作りたい。この期間を過ごした彼らが、オープンイノベーションやソリューション思考を通じて、社会が求める画期的なアイデアを提案する日を心待ちにしたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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