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地域サービス企業と自治体の官民連携による地方創生
~地方部有力企業740社に聞いたアンケート調査結果~

2017年11月21日 石田直美、前田直之山崎新太、大島良隆、松井英章


■調査の目的
 株式会社日本総合研究所は、2016年11月時点において、地方部に本社を有し地域に密着した事業を展開する企業を対象に、官民連携による地方創生に関するアンケート調査を実施した。
 現在、地域の現状に高い危機感を持っており、その課題解決に自ら動く必然性があるのは、地域に根ざした事業を行っており、地域において需要を維持する必要のある地場の有力企業と考えられる。そのような地場企業は、地域の資源(ヒト・モノ・カネ)に深く精通しており、自治体との結びつきも強いことから、地域の様々なプレイヤーを巻き込んだ官民連携による地方創生に対して意欲を有する可能性がある。
 本調査は、地方部において、地場の有力企業が有する危機感と、官民連携によって地域活性化を推進することに対する意向、課題認識、期待を把握することにより、地域主導で官民連携によって地方創生に取り組む際の鍵について示唆を得ることを目的とする。

■調査の実施方法
調査期間:2016年11月から12月
実施方法:郵送調査
調査対象:地方部に本社を有する売上30億円以上の企業4,458社(詳細は下表)
有効回答数:740サンプル(回収率:約15.8%)

図表1 調査対象

本社立地東京都および5大都市圏の政令市以外に本社を有する企業
業種総合工事業、電気業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、鉄道業、道路旅客運送業、道路貨物運送業、水運業、航空運輸業、倉庫業、運輸に附帯するサービス業、各種商品卸売業、繊維・衣服等卸売業、飲食料品卸売業、建築材料,鉱物・金属材料等卸売業、機械器具卸売業、その他の卸売業、各種商品小売業、織物・衣服・身の回り品小売業、飲食料品小売業、機械器具小売業、その他の小売業、不動産取引業、不動産賃貸業・管理業、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、医療業、保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業
売上30億円以上


■調査から得られる示唆
・調査回答企業のうち7割強が「地域の状況が自社の主たる事業領域に影響を与える」と考えており、特に、人口減少による減収を危惧する意見が多い。
・調査回答企業のうち約7割が、「地域が衰退傾向になった場合でも現在の地域で事業を継続する」と考えている。
・「自社の主たる顧客が地域内の個人・企業」の企業ほど、地域が衰退傾向になった場合でも現在の地域で事業を継続し、地域活性化が必要であると考えている。このことから、地域に根ざし地域内にサービスを提供している企業は、地域の現状に危機感を感じており、かつ状況が変化しても移転・撤退しない、地域にとって重要なプレイヤーであることが分かる。本稿では、このような企業を「地域サービス企業」と呼ぶこととする。
・産業別にみると、調査対象とした全産業分野において地域活性化の必要性が強く認識されている。このうち特に、医療・福祉業と電気・ガス・水道・熱供給業は、「地域が衰退傾向になった場合でも現在の地域で事業を継続する」と考えており、地域の基本的な生活基盤を支える社会インフラに関わる企業ほど、地域に密着し、その活性化に対する危機感を持っていると推察される。
・取り組み実績については、「既に地域活性化に資する取組を実施したことがある」と答えた企業は4割弱であり、多くの地場企業にとって地域活性化の取り組みは未だ本格化していない現状がうかがわれる。
・地域活性化に資する取り組みを実施した企業のうち、7割強の企業が、その際に自治体と連携している。また調査回答企業のうち半数以上の企業が「今後、地域活性化のために自治体との連携可能性がある」と考えている。
・その中で、「自社の主たる顧客が地域内の個人・企業」の企業ほど自治体と連携する余地があると考えており、地域サービス企業は官民連携による地域活性化に対して積極的であることが分かる。

図表2 地域の活性化のために自治体と連携する余地があるかどうか(N=740)


・地域活性化のために自治体と連携する余地を産業別にみると、上位から、「宿泊業」「医療・福祉業」「建設業」「不動産業」「電気・ガス・水道・熱供給業」の企業が、連携の余地があると考えている。
・地域活性化のために自治体と連携する取り組みを領域別にみると、上位から、「公共施設の整備・運営」、「高齢者福祉」、「観光」となっている。これを産業種別ごとにみると、基本的には自社の事業領域と類似する領域に関心を持っている。

図表3 自治体との連携が可能な領域(N=740)


・その領域に関心がある理由については、調査回答企業の7割強が「自社の事業との相乗効果」を挙げており、取り組み方針としては8割強が「中長期的に収益が見込まれる事業として」取り組む意向を示している。

図表4 自治体との連携が可能な領域について関心がある理由(N=740)


図表5 その領域への取り組み方針(N=740)


・官民連携の方策については、調査回答企業の約5割が「自治体からの委託業務の受託」とともに、「自治体との共同事業の実施」も視野に入れており、「観光」、「景観保全」、「教育」の3分野では、「自治体との共同事業の実施」を志向する企業が多い。

図表6 その領域に自治体と取り組む際の連携方策


・自治体と連携する上での課題については、すでに自治体と連携した経験のある企業は、「スピード感の違い」と「危機感・熱意の違い」を指摘している。また自由回答では、「新しいことに挑戦することに対する抵抗感」「行政手続きや人事異動によるスピード感の不足」「窓口の分かりにくさ」などが課題として挙げられている。

■調査から得られる示唆と提言
・地域内の市民や事業者にサービスを提供している地場企業(地域サービス企業)は、地域の現状に高い危機感を持ち、地方創生に対する動機が強く、自治体との連携についても積極的な意向を有していることから、こうした地域サービス企業を中心とした官民連携による地方創生が重要である。
・地域サービス企業は、立地する地域から撤退する可能性が低く、地域内にネットワークやリソースを有していることから、地方創生の取り組みについて事業推進力と中長期的な持続性を確保することができる。
・地域サービス企業が自社事業に加えて、相乗効果のある公共サービスを手掛けた場合、「同一の顧客(=地域住民)に対する複合的・一体的なサービス提供」が可能となり、それにより顧客満足度を高め、場合によっては囲い込みを行うことで、経営の安定性確保と地域における需要の維持につなげることができる。
・一方、調査回答企業からは自治体の官民連携についてさまざまな課題・障壁が挙げられている。以下に、地域サービス企業と自治体の官民連携が期待される分野と成功のポイントを述べる。

①地域主導型の官民連携事業の推進
・「宿泊業」「医療・福祉業」「建設業」「不動産業」「電気・ガス・水道・熱供給業」を主たる事業領域とする企業は、官民連携による地域活性化の可能性を感じており、有力な連携分野としては、「公共施設の整備・運営」「高齢者福祉」「観光」が挙げられている。このことから、今後、更新費や維持管理費に係る財政負担が急激に増大する公有資産(公共施設、インフラ資産)の管理・運営、少子高齢化により急激な需要の拡大が見込まれる高齢者福祉サービス、訪日外国人の増加に伴って地域経済の牽引が期待される観光振興の各分野において、積極的な官民連携の取り組みが期待される。
・これらの官民連携事業を真に地域活性化に資するものとするためには、自治体側は、地場企業の参画を促す事業条件設定や、地域の主体と連携したエリア・マネジメント業務を事業内容に含めるなどの工夫が必要である。また地域サービス企業側は、従来型の受託業務に甘んじることなく、官民連携事業に関する最新の知識やノウハウを積極的に習得することで、先導的な官民連携事業に参画する力を養うことが必要である。
・例えば、岩手県紫波町のオガールプロジェクトでは、東北銀行、テレビ岩手、岩手中央農業協同組合、紫波町等の共同出資により設立されたオガール紫波㈱が事業企画を担い、オガール紫波㈱と紫波町等の共同出資により設立されたオガールプラザ㈱が、紫波中央駅前のオガールプラザの所有、運営、管理を行っている。ここでは、紫波町が所有する公有地に定期借地権を設定した上で、オガールプラザ㈱は施設整備と地場企業主体のテナントミックスを行い、紫波町は施設の一部を買い取って図書館等を整備することで、官民双方がリスクを分担した地域主導型官民連携事業が実現している。また両社はさまざまな地域密着型イベントを開催することで、駅前のにぎわい創り、ならびに地域経済の活性化に寄与している。

②新規分野における公共サービスの提供に関する大胆な共同事業化
・地域サービス企業は、官民連携の方策として、自治体からの委託業務の受託に加え、自治体との共同事業の実施を想定しており、その有力な事業分野として「観光」「教育」「景観保全」等を挙げている。これらは、「観光」のように官民が十分に連携せずに実施してきた分野や、「教育」や「景観保全」のように、規制等により官民連携がほとんど導入されていない分野と言える。
・一方、DMOの組成、国立公園の「ナショナルパーク」としてのブランド化、文化財の保存から活用への動き、古民家などのストック活用、空き家対策、教育のICT化など、当該分野における新たな社会ニーズとビジネスチャンスは急激に拡大している。これらの新規分野において自治体と地域サービス企業は、従来の「発注-受注」関係にとどまらない、公益的サービスの提供に関する大胆な共同事業化を推進すべきである。
・例えば兵庫県篠山市では、篠山市に本社を置く一般社団法人NOTEが5棟の古民家をリノベーションした「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を事業展開しているが、これは(一社)NOTEが有識者会議で提案を行った上で、兵庫県が国家戦略特区に申請・採択されたことにより実現した事業である。国家戦略特区では「歴史的建築物利用宿泊事業」として歴史的建築物に関する旅館業法の特例が認められており、これに基づき (一社)NOTEは、複数の宿泊棟のフロントを1施設に集約化することで、事業採算性の確保につながっている。これは地域サービス企業が主導し、規制当局である自治体を巻き込んで共同事業化することにより、地域資源を活用した観光振興につなげた好例と言える。

③民間が「稼げる」事業環境の構築
・地域サービス企業は、地域活性化に資する官民連携の取り組みについて、ボランティアではなく、自社事業との相乗効果があり、かつ収益化を見込む民間収益事業として捉えている。これは民間企業にとっては当然であるが、連携する自治体にとっては十分に認識すべきポイントである。
・したがって自治体は、従来の「コスト削減・効率化」を目的とした官民連携事業ではなく、民間サービスと公共サービスの相乗効果を活かして、民間企業が「稼げる」事業環境を官民で作り出す姿勢が求められる。
・例えば、福岡県みやま市では、筑邦銀行、九州スマートコミュニティ(株)、みやま市の共同出資により設立された地域エネルギー会社である、みやまスマートエネルギー(株)が、地域内の再生可能エネルギーを買い取り、地域の公共施設、住民、事業者に対して電力供給を行っている。みやまスマートエネルギー㈱は、電力小売事業に加えて「みやまんサービス」や「さくらテラス」などの事業を展開しており、ここでは電気小売事業の収益を、高齢者の生活支援サービスやコミュニティスペースの運営などの地域貢献事業に還元することで、顧客(=みやま市民)の満足度向上と需要の維持・確保に努めている。また、民間事業者による公園施設と広場空間の一体整備を可能とするPark-PFIなども、民間事業と公共事業の相乗効果によって収益性を高めるスキームと言える。

④スピード感を持って官民連携事業に取り組むスキームと体制
・官民連携による地方創生における課題として、「行政手続きや人事異動によるスピード感の不足」や「新たなチャレンジへの抵抗感」などが挙げられており、これをクリアするには、自治体特有の制度・慣習(公共調達制度、庁内調整、縦割り等)に囚われない事業推進スキームが必要となる。
・一つの解決策として、「自治体が提供する公共サービスを民間にアウトソースする官民連携」から「民間企業が提供する公益的サービスを公共が利用する官民連携」へスキームを転換することが有効である。また、そのような公益的な事業の実施主体を地場企業と自治体が共同で組成し、かつ人材を民間登用することにより、民間のスピード感やノウハウと、公共性の担保を両立することが可能となる。
・これはいわゆる第三セクターによる事業実施スキームであるが、前述の3事例のうち、オガール紫波㈱と、みやまスマートエネルギー㈱は、いずれも官民共同出資の事業体でありつつ、経営層を含め人材は民間から登用することで柔軟な事業展開を可能としている。第三セクターに関する過去の失敗に囚われることなく、官民が出資という形で一定のリスクを負いつつ公益的なサービスを提供する事業体を立ち上げていくことは、持続的な地方創生において有効な手段である。
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