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【次世代シニア】
第24回 ギャップシニアの「動機の壁、認識の壁」

2017年11月14日 沢村香苗


 私たちが「ギャップシニア(※注1)市場の創造」を目指し、ギャップシニアコンソーシアム活動を始めて3年がたちました。ギャップシニアとの接点において、新たな関係を築くことに手ごたえを感じるとともに、実際に商品やサービスを選択し利用していただくことの難しさをあらためて考えさせられる日々です。私たちは、世の中にさまざまな高齢者向け商品・サービスが提案されているのに、ギャップシニアがそこに容易にはたどり着かない(利用しない)理由を、いくつかの「壁」として整理しました。その一部をご紹介します。
 (※注1)ギャップシニアとは、元気高齢者と要介護高齢者の間の高齢者を指す日本総研の造語です

 個人が商品・サービスの利用を決定するまでにはいくつかの意思決定が必要です。消費者行動論的には、購買前後の消費者の意思決定プロセスは「問題解決」であると見なされます。意思決定のステージは6つに分類されています。(Blalwell, Miniard&Engel 2006)
ステージ1)問題・ニーズ認知(今の自分の状態と、望む状態の違いを感じ、それを解消したいと感 じる)
ステージ2)情報探索(問題を解決するための情報を探索する)
ステージ3)購入代替案評価(情報探索の結果得られた選択肢を評価・比較する)
ステージ4)購買行動(実際に購入するために店舗に行く)
ステージ5)購買後評価(実際に使用して、満足・不満足の評価をする)
ステージ6)廃棄行動(使用後、費消し廃棄する)

 本稿では、消費者が自分の問題やニーズに気づくステージ1(問題・ニーズ認知)にある壁を取り上げます。ステージ2(情報探索)以降にも壁はあるのですが、その前のスタートラインに立つところが一番高い壁だと私たちが考えているからです。

 「緑内障発症後、自転車に乗ることをやめたギャップシニアAさん」を例にとって考えてみましょう。
 Aさんは発症するまで自転車で10分かけて大きなスーパーに行くのが日課でした。野菜の鮮度が高く、品ぞろえが豊富だったことが魅力で、料理をして隣近所におすそ分けすることが、日々の張り合いとなっていました。今は、徒歩で行ける近くのスーパーに行っていますが、価格は安いものの品質や品揃えに魅力がなく、荷物も重いので買い物がおっくうになってきつつあります。料理も意欲がわかず最近おすそ分けはしていません。
 そのAさんが、新たなサービス(たとえばネットスーパー)を利用するとして、ステージ1(問題・ニーズ認知)にどのような壁があるか、考えてみましょう。

 ステージ1(問題・ニーズ認知)には、2つの壁が存在します。
 1つめは、「動機の壁」です。Aさんが日々の買い物をなんとなく不満だと感じていても、積極的に解決する道を探ろうと思わないことです。ネットスーパーのようなよく知らないものに手を出して失敗するのは怖いですし、加齢の途上でたくさん諦める経験をしてきたので、何かにつけてギャップシニアの動機はくじけてしまいがちです。

 2つめは、「認識の壁」です。例えばAさんは、毎日の買い物にもやもやと満たされない思いを抱えていて、そのせいで生活の張りが失われていますが、Aさん自身はその思いの内容を突き詰めて認識していません。「普段の買い物でご不自由なところはありませんか」と聞いても、「荷物がちょっと重くてねえ」という答えが返ってくるくらいです。

 2つの壁を乗り越えるためには、ギャップシニアの動機を保ち、ニーズの認識をしやすくする仕組みが必要です。
 1つめの「動機の壁」を乗り越えるためには、Aさんが望む生活のレベルを自然に下げてしまうことを防ぐ、日頃からの工夫が必要です。自己イメージを高いレベルに保ち、それに対して喜びを感じる機会がなければ、自然と「引退」「卒業」という形でギャップシニアは生活を縮小してしまいます。私たちは「楽しみ」「参加・貢献」「承認」を得る機会を、日常生活の中にできるだけ多く設けることが重要だと考えています。それは、「通いの場」でも実現できますし、SNSを活用することでも可能だと思います。「Aさん、今週も○歩歩いたね」「Aさんの料理はおいしいよね」または「いつもAさんの料理の写真を楽しみにしています」という他者の反応だけでも、十分「やり続けたい」気持ちを保つ効果が見込めます。

 2つめの「認識の壁」を乗り越えるためには、ギャップシニアが普段から商品やサービスに触れる機会を多く設け、その商品やサービスが満たしてくれるニーズ(自分の生活に何を与えてくれるか)に気づいていただくことが必要です。Aさんの例では、「買い物に何か不自由があるか」という質問では何も要望が出てきませんが、ネットスーパーや買い物代行、移動販売などのサービスの提案があって初めて、「私は質の高い食品を買いたい」「私はたくさんの品ぞろえの中から選びたい」「私は自分で選びたい」という細かなニーズ(今満たされていないもの)が顕在化し、それらが実現するのであれば新しいものを利用しようという気持ちが喚起されます。若年者は、選択肢を提示されれば自然と利用後の未来像をイメージし、それに基づいた取捨選択をしますが、ギャップシニアはイメージ機能が低下していますので、できるだけ実生活に近い、身近な人の利用例を共有することが、自らの状況の変化に応じた商品・サービスの自然な想起と選択につながると考えられます。

 どちらについても、全く新しい話ではなく、既存の「通いの場」や「口コミ」といった、高齢者に有効だと知られているチャネルをどう意図的に活用していくか、という提案です。なぜこれらのチャネルが高齢者に親和性が高いのかを考え、より有効に活用できるように、意図と一貫性をもって組み合わせていくことが必要ではないかと私たちは考えています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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