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ESG投資の潮流は不動産投資市場にも

2017年10月24日 長谷直子


 ESG投資が拡大している。2016年の世界のESG投資運用額は、22兆8900億ドル(約2500兆円)で2012年比約2倍となり、世界の投資総額の4分の1を占めるまでに成長した。このうち日本のESG投資運用額は、2016年時点で約56兆円である。世界の運用額に占める割合としては依然として少ないものの、世界最大級の資産規模を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年7月、ESG指数に連動した日本株の運用を1兆円規模で始めたことなどを背景に、日本でもESG投資に対する関心が高まっている。

 ESG投資拡大の潮流は、不動産投資市場にも影響を及ぼしている。不動産投資の意思決定プロセスにESGへの配慮を組み込むため、欧州の主要年金基金グループが、「GRESB」という不動産会社・ファンドのESGへの配慮状況を測るベンチマークを2009年に策定した。2017年時点のGRESBの不動産評価参加者は、世界で850(昨年は759)に及ぶ。日本でも53が参加、そのうちREITは34であり、時価総額ベースで日本の上場REIT市場の85%(2017年9月時点)が参加していることになる。GRESBへのREITの参加が増えている背景には、投資家によるESG情報開示の要請の高まりが挙げられる。あるREITの資産運用会社の担当者の話によると、投資家からのESG情報に関する問い合わせは年々増えているという。最近では、GRESBの評価を受けていないREITには投資しない、という投資家すら存在するようだ。

 なぜ、投資家の要請が高まっているのか。それは、ESGに配慮した不動産の投資市場での優位性が認められ始めているからだ。2015年にケンブリッジ大学が行った調査によると、GRESBで評価が高いREITほど、優れた財務パフォーマンスをあげており、ROA、ROEともに高いという。保有不動産への環境配慮の取り組みが、賃料収入に好影響をもたらすことを投資家にアピールする企業も現れている。不動産の再生事業を行ういちごホールディングスは、2017年度の株主通信の中で、保有不動産に対して環境性能向上や省エネの設備改修を行ったことでテナントの満足度が向上し、賃料収入の増加が実現したこと(オフィスでは、不動産取得時に比べて賃料収入が13.8%向上、ホテルの賃料収入は28.3%向上)を報告している。例えば、LED照明や高効率空調設備を導入することでテナントは電気代が安くなるため、その代わりに賃料を上げるという提案がしやすくなるというわけだ。テナントの賃料を上げることができれば、REITの資産運用会社は投資家への分配金利回りを上げることができる。資産運用会社が保有不動産の環境性能向上を積極的に進めるのは、利回りアップという狙いがあるのだ。

 日本は、ビル建築や設備改修において優れた環境技術を持つことから、環境に配慮した不動産開発や設備改修を進めることに優位性を持つはずだ。しかし、2017年のGRESB不動産評価結果によると、日本は他国の平均に比べて、テナントとの関係構築に関するスコアが低い。環境への配慮に加えて、例えばオフィスビルや商業施設であれば、テナントの従業員の健康や働きやすさへの配慮を意識することで、さらなる賃料収入の増加や賃貸面積の増加、テナント稼働率の向上が期待できる余地がある。利回りが改善すれば、世界の投資家にとって日本の不動産は魅力的なものとなるだろう。不動産に対してESGへの配慮を積極的に進めることは、日本の不動産投資市場全体を活性化させるチャンスとなり得る。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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