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日本総研ニュースレター 2017年3月号

ビジネス拡大のために非財務面の知見を活用せよ

2017年03月01日 黒田一賢


発行社数では「統合報告書」先進国となった日本
 2016年12月にロンドンで開催された、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)・国際統合報告評議会(IIRC)共催による「長期的価値創造のための対話」と題した国際会議に参加した。会議の重要なテーマとして特によく討議されたのは、財務情報と非財務情報を統合した、「統合報告書」関連の課題であった。
 非財務情報とは、元来企業市民としての責任という観点から環境配慮の活動を報告するものであった。近年では本業を通じた社会貢献重視の観点も含むように発展し、耐用限度や操作の簡便性といった品質、女性・外国人の採用状況や研修費用といった人材の多様化・育成等の情報までをも指すようになった。こうした非財務情報の開示が本格化したのは2009年の統合報告推進団体IIRC発足からである。海外での統合報告書導入の動向に乗り遅れまいとした日本は、2016年には国別の発行社数で世界最多の300社超が「統合報告書」を発行し、今回の会議では「先進国」と紹介されるまでになっていた。

趣旨を理解していない「統合報告書」の特徴
 しかし、それらの「統合報告書」をつぶさに読んでいくと、「先進国」という評価は過大なものであり、中身はともあれ、参加企業を急増させたことへの「ご祝儀」に過ぎなかったことに気付かされる。確かに財務情報と非財務情報が一つの資料として掲載されているが、多くの場合、アニュアルレポートとCSRレポートを単純に張り合わせた程度にとどまっているというのが率直な感想である。
 統合報告書が生まれたのは、今後の企業の経営戦略において、非財務面が、財務面と同様に企業の成長を大きく左右すると考えられるようになったからである。例えば、医療機器メーカーである日本光電工業が売上高・経常利益の平均成長率が上昇し始めたのは、同社が自己責任不良率・再修理率の品質面やエネルギー使用量・廃棄物最終処分量の環境面での改善に取り組みを開始した2011年からである。そのことは、同社のウェブサイト上の開示から確認でき、多くの投資家からも高い評価を受けている。
 現在、特に国内外の巨大年金基金からは、非財務情報の開示が求められるようになってきているのであるが、残念ながら経営戦略と結びついた形の説明がなされていない統合報告書は数多い。それらの典型的な特徴として、以下の2点が挙げられる。
 第一は、非財務情報が財務情報に与える定量インパクトが示されていないことである。統合報告書の主要な読者が投資家であることを考えれば、この説明がない非財務情報に関する取り組みは単なる資本の無駄遣いと誤解されかねない。非財務情報を経営戦略に組み込まれているならば、その非財務情報が財務情報に与える定量インパクトを把握し、開示するべきである。
 第二は、非財務情報の開示内容が、企業の投資家向け情報開示媒体ごとに異なっていることである。例えば、人材の多様化・育成について、統合報告書では詳述する一方、中期経営計画では一切言及が無いケースである。これは、年次ベースでは統合報告書作成のために非財務情報をまとめてはみたものの、中長期ベースではそれらを積み上げた経営戦略が存在しないためと推測できる。これでは、統合報告書としての信頼を得られるはずがない。

非財務面の知見がビジネス拡大に不可欠
 統合報告書はあくまで経営戦略とその実行結果を報告する媒体である。しかし非財務情報の重要性が増してきた現在においては、財務面および非財務面の両面をつまびらかにしながら、経営戦略が総合的な監視を受けることによって、最適なビジネスを選択していくために活用することが重要となってきた。
 伝統的に企業の報告書は財務面に重点が置かれ、非財務面での情報開示は経営戦略との関連性を示していない、企業市民としての責任に関するものばかりだった。しかし非財務情報に対する投資家の関心は高まる一方であり、企業は非財務情報の経営戦略への活用とその開示に注力する必要がある。経営者はビジネス拡大のために非財務面での知見が活かされるよう社内体制を整えるべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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